第95話 宝箱の確認はクッキーの効果が切れたあとで

 酒場の閉店時間少し前にミケのところに訪れる。

 先ほどまで宴会しちえた男たちはもう家に帰っていた。

 閉店時間まで飲む客はほとんどいない。そんなことしたら奥さんに怒られる。

 そもそも、それほどお金もないらしい。


「ボス、こんな時間にどうしたにゃ? もうすぐ閉店にゃよ?」


 ミケが一匹で麦焼酎の入ったぐい吞みを傾けながら尋ねる。


「ドリンクバーに用があってな。俊敏薬、できてるか?」

「できてるにゃ。ちょうど三人分」

「助かる。そうだ、酒樽の追加だ。日本酒用の酒樽だ」


 俺は道具欄から日本酒用酒樽を取り出す。


「助かるにゃ。樽はいくつあってもいいからにゃ。でも、この形だと日本酒を作りたくにゃるにゃ」

「米がまだ手に入らないからな。できたら持ってくるよ」

「頼むにゃ。何か飲んでいくかにゃ?」

「いや、これからボール狩りだから遠慮しておくよ。軽食だったら食べていきたいが」

「いまは無理にゃ。ボスが酒場レベルを上げてくれたらオレっちも軽食くらいは提供できるんだけどにゃ」

「ははは、悪い。拠点ポイントの使い道は決まってるんだよ」

「ポチが今朝からいにゃいのも、その使い道かにゃ?」

「そういうこと」


 俺はそう言って、ドリンクバーに溜まっていた俊敏薬を空き瓶に入れて錬金工房に向かう。

 早速俊敏薬から俊敏ブースト薬を15個錬成した。

 それを持って家に帰る。

 アムとミスラは既に戦いに行く準備ができていた。


「さて、今日は俊敏ブースト薬を使ってボール狩りをする。太陽のクッキーも使って、二周する。ブースト薬は15本あって効果は一本につき五分。味方全員に効果がある。薬の管理はミスラに任せたいがいけるか?」

「……任せて」

「よし、頼んだ。それと、前回と同様、三十分経過すると同時にボス部屋に到着するようにペースを掴んでくれ。通常のボール退治が終わったら即ボス戦に挑んで、二周目に行きたい。太陽のクッキーの制限時間で二周目一杯経験値を稼ぎたいからな。宝箱の中身の確認も後回しだ。一番宝箱の近くにいる者が開けて収納。確認は二周目のボス戦が終わってからする。いいな?」

「はい!」

「……わかった」


 確認し、まずはミスラが俊敏ブースト薬を飲む。


「……不味い。もう一杯」

「誰からそのネタを聞いたんだ? 飲むのが嫌なら道具欄から使うを選択してもいいぞ。アム、太陽のクッキーを食べてくれ」


 太陽のクッキーは誰が食べてもパーティ全員に効果が出るので、今回はアムに食べてもらった。

 こっちは俺が前回食べたが結構美味しかった。

 アムがクッキーを食べて水で流し込む。


「じゃあ行くぞ」


 俺たちは転移門に試練ダンジョン入場回数券を差し込んだ。

 これで転移門が試練のダンジョンに繋がった。


「頑張れよ」


 見張りをしていた村人に見送られ、俺たちは転移門を潜った。

 そして、一気に散開する。

 いつもより速く動ける。

 よく、こういう速度が上がる薬を飲んだ時、身体が羽みたいだとか表現するけど、そんなことはないんだな。

 むしろ身体が重くなった気がする。

 たぶん、脚の筋肉が強化されているからだろう。

 脚に力が入る。


 シルバーボールを見つけた。

 この脚力なら蹴っても効果が出るんじゃないかと思って、いきなりボールを蹴っ飛ばしてみた。


「ボールは友達キーックっ!」


 宙に浮かぶシルバーボールを追い詰め、思いっきり蹴り飛ばす。

 が、蹴飛ばした脚が痛かった。

 金属の塊を蹴飛ばしているのだから当然だ。

 一応ダメージを与えているが、クリティカルの事を考えるのなら黒鉄の斧の方がいいだろう。

 やっぱり俊敏値が上がっているお陰で、攻撃が当たりやすくなっている。

 前回より早く一体を倒し、俺は次のシルバーボールを捜しに行く。

 二体のシルバーボールを見つけた。

 こういう時も二体同時に追ったりはせず、一体に対して集中的に狙う。


「アクセルターン」


 回転しながら斧でシルバーボールを叩きつける。

 それでも逃げるシルバーボールに追撃を入れるとクリティカルが入った。

 内心ガッツポーズしながらも、さっき逃げたもう一体のシルバーボールを追いかける。

 暫くボール退治をすると、一瞬体の動きが鈍くなるのを感じた。

 俊敏ブーストの効果が切れて、また俊敏ブーストが入ったようだ。

 つまり、五分が経過したということになる。

 あと二十五分でボス部屋の前に行かなければいけない。

 そのことを注意しながらボール探索を続けた。

 走りながらレベルを確認すると、順調に強くなっている。

 今日中にレベル40も夢じゃないな。

 レベル40になったらシルバーボールがゴールドボールになる。

 さらにレベル上げしやすくなるぞ。


 ちょうど六回目の俊敏ブースト薬が切れる直前にアムたちとボス部屋の前で合流した。

 二人も今来たところのようだ。息が切れている。


「ご主人様」

「……トーカ様」

「アム、ミスラ、入るぞ」


 休む暇はない。

 ボス部屋に突入した。

 巨大なシルバーボールと戦う。

 戦闘中に俊敏ブースト薬の効果が切れたが、ボス戦が終わるまでブースト薬は使わないことになっている。

 三人で部屋の隅においつめてボスを撃破した俺たちは出てきた宝箱を――あ、金色宝箱があった、ミスラが開けた――を開けて中身を取り出し、ダンジョンから脱出――試練のダンジョン入場回数券を使って再入場する。

 ミスラが俊敏ブースト薬を使い、三人でシルバーボール狩り再開だ。


 さっきの金色宝箱の中身なんだったんだろうか?

 こっそり道具欄を確認しようするが、別行動しているためミスラの道具欄を確認できない。

 町の中くらいだったら別行動していても道具を確認できるのに、ダンジョン内の別行動だと確認できないんだよな。

 中身なんだったんだろ?

 それを確認する時間くらいとればよかった。


 内心もやもやしながらも、俺はシルバーボールを殴り続けた。

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