第282話 ボランティア活動は試合見学のあとで-2

「あ、あの――」

「早く、こちらです! 子どもたちも待っていますから!」


 人違いでは? という前にシスターさんが走り出してしまった。

 この後着替えてカフェでも行く予定だったんだが――


「……トーカ様、行こう」


 珍しくミスラが率先して俺にそう言った。

 結局、俺たちはシスターについていくことになった。

 そこは帝都の郊外の教会だった。

 帝都の中央にも大きな教会があるけれど、こっちは庶民的というか、結構おんぼろだった。

 

「どうぞ、こちらです」


 教会の中には入らず、併設されている隣の建物に向かう。

 大きな中庭のある孤児院だが、こっちも建物そのものはボロボロだった。

 ていうか、中庭の半分が畑になっているので、半自給自足の生活をしているのかもしれない。

 畑では子どもたちが水を撒いていたが、シスターが見ると俺たちに近付いてきた。


「院長先生! その人たちだ~れ?」

「後で説明するから、ヨシュア、みんなを集めてくれる?」

「はーい」


 男の子がそう言って孤児院の中に入っていく。

 畑の世話をしていたのは年長の子どもたちだったようで、さっきより小さな子どもたちがぞろぞろと出てきた。

 合計30人程になった。

 


「はぁい、皆さん! 今日は全国各地でボランティアをして回っている、ワイワイ動物劇団の方が来てくれましたよ! 手紙を出しても返事がないから無理かなって思ったんですけど」


 院長先生が声を上げて言う。

 なるほど、俺たちがその動物劇団の人と思ったのか。

 諦めていたところにそれらしき人を見つけて、確認することも忘れて連れてきたってわけか。

 待ち合わせ場所に来たところで断られたら困るので、有無を言わせず連れてきた可能性もあるけれど。

 ていうか、動物劇団って何をすればいいんだ?


「みんなー、今日は集まってくれてありがとう♪ 短い間だけど楽しんでいってね♪」

「――っ!?」


 そう言って声を上げたのは、なんと猫の着ぐるみを着たミスラだった。

 ミスラが普段、小さな声でしか話さないのは魔術師は必要なときに声が出ないといけないから喉をいたわっているからで、大きな声を出そうと思えば出せる――ってのは聞いていたけれど、こんな風に元気に話すミスラを見たことがない。

 もしかして、別人が入っているんじゃないか? って思うほどだ。

 ミスラが手を上げて、


「火よ、明るく照らせ!」


 そう言うと彼女の手から綺麗な火の弾が上がって空に上っていく。

 魔法なんて普段見たこともない子どもはそれだけで大はしゃぎだ。


「じゃあ、豚さんと狐さんとネズミさんの剣舞を見てね☆」


 ミスラがいきなりそんな無茶振りを始めた。


「(おい、ミスラ、剣舞ってなんだ)」

「(私もしたことがありません)」

「(私はネズミではなく、コアラという動物だぞ)」

「(……トーカ様対二人の模擬戦をするだけでいい。ただし、三人とも剣は派手に出してスポットライトも使って)」


 それでいいのか?

 さっき見学したときにアムとハスティアも剣を道具欄に閉まっている。

 俺は白銀の剣を、アムとハスティアもそれぞれ剣を取り出す。

 そして、三人での模擬戦が始まった。


「ごしゅ――ブタさん、胸をおかりします」

「ゆう――ブタさんとの手合わせ、胸が高まります」

「二人とも、手加減をしてくれよな」


 と言いながら剣舞という名の模擬戦は始まった。

 スポットライトにより照らされた動物たちの模擬戦に、子どもたちは興奮して歓声を送る。


「キツネさん、がんばれー!」

「ネズミさん、まけないでー!」


 人気なのはアムとハスティアだ。俺が悪者扱いされている。

 なんでだ? オークみたいだからか?

 試合は続いた。

 バックステップやアクセルターンなど派手な技を多めに使い、二人と勝負する。

 当てないように必死だ。


「これでもあたりませんか、さすがブタさんです」

「せめて一太刀だけでも――」


 二人とも、本気になってないよな?

 と思ったら、アムの攻撃が当たった。

 痛くはない。

 アムの攻撃力だとダメージは少しは負うはずだが、ちゃんと手加減してくれていたのだろう。

 これはちょうどいいころ合いだと思い、


「やられたブー」


 と変な語尾を入れて、俺は倒れた。

 子どもたちが歓声を上げるので、起き上がって三人で一礼する。


「みんな、楽しかったかな? じゃあ、これからみんなにお昼ご飯を作るから、ちょっと待っててね☆」


 ミスラがノリノリだ。

 子どもたちはお昼ご飯と聞いて大喜び。

 俺たちはシスター院長さんに厨房に案内してもらう。


「では、お昼の準備してますから」


 俺はそう言って食材を取り出す。

 幸い、調味料は多めに持ってきているし、魔物肉も業者レベルに持っているから孤児院の子どもたちの食事を作るには問題ない。

 とりあえず、シスターがいなくなったところで全員着ぐるみを脱いで、水を飲んで一息ついた。

 猫の中身は本物のミスラだったとだけ言っておく。


「……トーカ様、アム、ティア、お疲れ様」


 いつもの口調でミスラが言う。


「本当にな。どういうつもりだ、ミスラ」

「……ん、ミスラも子どもの頃、孤児院でお世話になったことがあるから」

「そうなのか」


 そういや、こいつも幼い頃に両親を殺されてるもんな。

 その後、具体的にどんな生活を送って来たかは聞いていなかったが、孤児院の世話になってたのか。


「ミスラ、自由裁量で使えるお小遣いのうちほとんどを孤児院に寄付しているんですよ」

「そうなのか? 言ってくれたら俺が出したのに」

「……トーカ様が出したら、孤児院がもう一棟建つレベルの寄付をしそう。ミスラがいた孤児院、別にお金には困っていないから。相手が遠慮せずに受け取れるくらいがちょうどいい」


 ……ぐっ、確かに何百万イリスも寄付している自分が想像できる。

 でも、ミスラが孤児院って聞いて、何かしないといけないって思ったのはそういう理由からか。

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