第281話 ボランティア活動は試合見学のあとでー1
その日、俺たちは武道大会の対策のために闘技場に向かった。
俺たちが出場していた予選トーナメントは既に終わっているが、試合が長引いたりして遅れた残りの予選トーナメントの決勝戦が予備日の今日、行われている。
既に入場チケットは完売しているのだが、決勝トーナメント出場者は特別席が用意されているらしく、俺たち四人揃ってその特別席に行くことができた。
入場時に武器を預けることになっているが、俺は出し入れ自由の聖剣、みんなは道具欄に入れているので預ける必要もなく持ち込むことができた。
決勝トーナメント出場者への待遇は本当にいいな。
他にも、チケットの優先購入権や場内で販売されているグッズの割引などいろいろと優遇措置もある。
ちなみに、ここには俺たち以外にも客はいて、全員アリから情報を貰っている選手たちだ。
金持ち用や貴族、王族用のVIPルームは別にあるので、ここにいるのは運営側の人間を除けば決勝トーナメント出場者だけらしい。
カイザーや霜月は皇帝用の席があるだろうからいなくて当然だが、ワグナーやスクルドの姿もない。
特別席は豪華な内装の部屋で、戦いの舞台はガラスの一枚窓の向こうに見える。
「このガラス凄いな」
「確かにこんな大きなガラスは見たことがないです」
「いや、そうじゃないんだよ」
俺はアムに説明した。
鑑定によると、このガラスって強化ガラスになっていてちょっとやそっとの衝撃は跳ね返しちゃうらしい。
そんなこと言われたら、どこまで耐えられるのか試したくなるけれどそんなことはしない。
「……トーカ様、魔法を使ってもいいかな?」
ワクワクという感じで言う。
「ミスラ、会場内は魔封じの結界がかけられているそうだぞ」
「……この程度の結界でミスラの魔力を封じられるはずがない」
ハスティアにミスラが答える。
ミスラの言っていることが事実であるかのように、なんか彼女の周りがバチバチしている。
結界が弾けているようだ。
周囲の人間がざわついている。
「うそだろ? 対宮廷魔術師の魔法封じだぞ!? あのザヴァン様の魔力でも封じることができた結界なのに」
「あれ、殴り猫魔術師のラミスだろ? なんて魔力だ」
「ふざけているのは恰好だけじゃないのかよ」
ミスラが目立ちすぎている。
ていうか、殴り猫魔術師って言われているのか。
「ラミス様。会場内での魔力の使用はお控えください」
飲み物を持った給仕さんが、トレイを持ったまま駆け寄ってきた。
本当に慌てているときはトレイを置いてくること
「……わかった」
「ありがとうございます。お飲み物はお召し上がりになりますか?」
「………………飲めないからいい」
同じように俺たちも飲み物を断った。
うん、この姿だと飲めないよな。
いくら変装のためとはいえ、着ぐるみは面倒だな。
「始まるぞ」
残っているのは斧使いのロクロと、蛇刀使いのグラナドだ。
ちなみに、アリからの情報によると、グラナドは死刑執行待ちの強盗殺人犯らしい。
その証拠にグラナドが会場に入る時、看守らしき男に連れられて入場し、武器もその場で渡された。
「……罪人なのに出場?」
「今回の武道大会においては、囚人の参加も認められている。しかも決勝トーナメントベスト4に入ったら恩赦が与えられるらしい。罪人に対して闘技場で戦わせるのは昔からある慣習だから民衆からの反発も少ないようだ」
って、アリからの情報に書いてあった。
「それに、指名手配犯が出場を申し込んだ場合、問題を起こさなければ大会期間中には逮捕しないというルールもあるそうです。同じくベスト4に入れば罪を不問にするそうです」
ハスティアが引き継いで言う。
アムとミスラが亜人差別のせいで聞きこみできない分、彼女も率先的に今回の大会について調べてくれたのだろう。
ワグナーが偽名も使わずに出場できているのはそのためか。
トランデル王国で指名手配されているワグナーが、この国ではどういう扱いになっているかはわからない。
しかし、仮に指名手配を受けていたとしても運営に密告して失格にすることはできないというわけか。
尚、試合は一進一退の攻防が続き、最終的に蛇刀使いのグラナドが決勝トーナメント出場を決めていた。
会場からのブーイングがここにまで届いている。
「しかし、本当に恩赦が与えられるのか?」
ベスト4ってことは、二回勝ったら無罪放免?
まぁ、今の戦いを見ると俺たちやワグナー、カイザー、霜月が負けることはない。
アリから貰った情報でも下から数えた方が早い実力であるが、それでも万が一ということはある。
「過去の大きな大会で優勝し、恩赦が与えられたことはあるそうですが、大半はその前に運営側が用意した強者と戦って凄惨な結末を迎えることになるそうです。観客の中にはそれが楽しみな方もいらっしゃるようですね」
さっき飲み物を運んでくれたメイドさんが答える。
殺しがショー……まぁ、死刑などの刑罰の執行が民衆の娯楽ってのは昔の日本やヨーロッパではよくあることだったそうだし仕方ないか。
その後、別の試合も始まったが、特に強い相手はいなかった。
決勝トーナメントに出場するのもアリの予想通りの選手で、大番狂わせとかはなかった。
今回決勝トーナメント出場することが決まった奴らが相手なら、俺たち四人が負けることはないだろう。
まぁ、俺たちにも見抜けないほどの強者とかだったらわからないけれどな。
「じゃあ、帰るか……どこかで一度着替えないとな」
と闘技場を出たところで――
「すみません! ちょっとよろしいでしょうか?」
突然俺たちに声をかけてきたのは、修道服を着た年配の女性。
もしかして、俺のファンとかだろうか?
「ボランティアの方ですよね! 孤児院はこっちです。早く来てください」
……はい?
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