第258話 ドラゴンの孵化はスライムを100匹倒したあとで

 試練の塔10周が終わり、俺のレベルは78まで上がった。

 目標に僅かに足りないが、及第点だろう。

 ちなみに、仲間のレベルはアム63、ミスラ60、リーナ45、ハスティア47という具合だ。

 後からパーティ加入のハスティアの方がレベルが高い。

 まぁ、これは初期レベルの違いだな。

 しかし、これでようやくリーナも紙装甲卒業だろう。

 とりあえず、帝国に行くためのレベリングはこれでいい。

 残す一つはポチ次第か。

 アイリス様の仕事のせいで施設の増築がいつ終わるかだな。



 そう思っていたら、翌日ポチから連絡があった。


「あるじ、増築が終わったのです!」

「え? もう終わったのか? 昨日頼んで今日?」

「あるじから貰って保存していたドッグフードを使ったのです」


 おぉ、全部食べてなかったのか。

 ドッグフードはポチの好物ってだけじゃなく、建築速度を高める効果があるからな。

 アイリス様からの依頼のため、ポチが急いでくれたのだろう。

 増築のためお披露目会は無し。

 寄り道をしてから家の外の新しくできた施設に向かった。

 山羊や羊がいろいろとのんびりと草を食べている牧草地の隣にある家畜用の宿舎。その隣に別の建物ができた。

 孵化部屋だ。

 ここに特定の卵アイテムをセッティングすることで孵化させることができる。

 本当は牧場のレベルアップは後回しの予定だったが、帝国に行くとなったので、移動用のドラゴンが欲しいと思ったのだ。

 特に五人で乗れる走竜か空竜が欲しい。

 

 ドラゴンの卵を取り出す。

 これを孵化機にセッティングする。


「あとは待つだけだな」

「孵化するのにどれくらいの時間が必要なんでしょうか?」

「魔物100匹退治だ」


 ゲームなので、時間経過ではなく魔物を倒した数で孵化する。ってことで、


「ミスラ、例のものを――」

「……ん」


 ミスラがスライムを持ってくる。

 さっき寄り道して捕まえてきたスライムだ。 

 そして、彼女が回復魔法をぶち込むと、スライムが過回復により分裂。

 って、魔力が増えてるせいで分裂速度が以前より速いな。


「倒すぞ!」

「はい!」


 みんなで分裂したばかりのスライムを倒す。

 分裂速度より倒す速度の方が早いので、俺もスライムを増やす方に回った。

 ミスラと二人でスライムを増やし、三人で倒す。

 一番倒しているのはアムだな。

 さすがモグラ叩きチャンピオンだ。

 酒場のモグラ叩きで彼女が打ち立てた記録は未だに更新されていないらしい。

 家畜の世話をしていたフィリップがかなり怯えた様子でこちらを見ていた。

 フィリップが飼っているスライムにこんなことはしないからあんまり怯えないで欲しい。

 僅か5分で100匹討伐完了。

 一応数え間違えを考慮して110匹まで倒したところで、一匹を残して孵化室に戻る。


 孵化室に入ったところ、いつでも孵化できる合図として、ドラゴンの卵に罅が入っていた。


「よし、いよいよ孵化するぞ」


 卵が孵化する時が来た。

 さて、何が出てくるか?

 卵の罅が段々と大きくなってくる。

 そして、中にドラゴンのシルエットが見えた。

 直後、卵が一気に割れた。


「……え?」


 最初に気付いたのはミスラだった。

 何故なら、ドラゴンの卵の中に何もなかったからだ。


「……ハズレ?」

「いえ、でもさっきドラゴンの影が見えましたよ」

「ああ、それにアムも気付いているだろう?」

「はい、どこかに気配がします」


 気配はすれども姿は見えずって言ったところか。

 本当に気付いていないのか?


「みんな、どこ見てるんだ? いるだろ、ドラゴン」

「「「「え?」」」」


 やっぱり四人とも気付いていないな。

 俺は足下を指差した。

 指差した方向――床にしっかりドラゴンの影が映っていた。

 みんな影の位置をみたところで、再びドラゴンを探そうとするが、そうじゃない。


「この影がドラゴンなんだ。名前はシャドードラゴン。闇属性のドラゴンで、レア度は上から四つ目くらいかな? 当たりの部類だぞ。出てこい」


 俺がそう言うと、その影が実体を作って浮かび上がった。

 真っ黒な小さいドラゴンが俺の肩に止まる。


「名前はノワールにしよう」


 蒼剣で遊んでいたときもシャドードラゴンを仲間にしたことがあって、その時に付けた名前だ。

 フランス語で黒ってだけのそのまんまの名前だが、割と気に入っていたので、その名前を継承させた。

 気に入ったらしい。ノワールは嬉しそうに宙返りをして、再び俺の肩に止まった。

 うんうん、懐いているな。

 とてもかわいい。


「ご主人様、乗って移動するには小さいんじゃないですか?」

「そうだな。でも、直ぐに大きくなる。餌を与えて、さっきみたいにスライムを倒しまくればな」

「餌は何を食べるのですか?」

「肉だな。特に魔力の籠った肉――ドラゴンの肉がいい」


 ドラゴンにドラゴンの肉を食べさせていいのかって思うかもしれないが、ドラゴンがドラゴンを食べるのは、哺乳類が哺乳類を食べるのと同じ感覚。

 つまり、シャドードラゴンが他の種族のドラゴンを食べるのは、人間やライオンが牛や豚を食べるのに等しいってことだ。

 何の問題もない。


 冷蔵庫に入れてあった大量のドラゴン肉を持ってきて、それを食べさせながら、俺たちはさらにスライムを持ってきて、スライム過回復による分裂掃討による討伐数稼ぎを実施するのだった。

 ついでに謎の卵も孵化させるか。

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