第127話 出発は支払いのあとで
ポットクールさんが村にやってきた。
これから護衛の旅の出発だ。
ポットクールさんの護衛と聞いていたので、一台の馬車に俺たち三人が詰められ、必要な時に出ていくのかと思ったら、そうではない。
馬車の数は三台。商会の人間は合計六人。
俺たち三人はそれぞれ別の馬車の中に入ることとなった。
アムやミスラと三人で雑談しながらのんびり旅という目論見は、旅立ち前に砕けてしまった。
さらに、護衛が10人もついてきている。
そんなに護衛がいるのなら、俺たち三人同じ馬車でいいじゃん……とポットクールさんに文句を言いたい。
「アムルタートとミスラと話しながら旅をしたかったという顔をなさっていますよ、聖者様」
「え?」
「ははは。聖者様は偉大なお方ですが、そこまで顔色を読まれるようでは交渉事には向きませんね。それと、出発前に渡しておきたいのですが――」
と袋を俺に渡した。
護衛の依頼料だろうか?
感触からして、お金が入っているのは間違いないが、この重さ――銀貨よりも重い?
中を確認して、俺は驚いた。
全部金貨だ。
これ、何枚入ってるんだ?
しかも1袋ではない。10袋くらい入っている。
「護衛料にしては多すぎませんかっ!?」
「ははは、護衛料はこちらです。お忘れですか? 聖者様がお売りになった宝石のことを」
「あ……」
そういえば、ルビー、エメラルド、サファイアを王都のオークションに出していたんだった。
「いくらになったんですか?」
「ルビーの落札額150万イリス。エメラルドの落札額670万イリス。サファイアの落札額320万イリス。合計1140万イリスですな。そこからオークション手数料として5%、税金で10%、当商会の手数料として上限いっぱいの3万イリスを引かせていただき、971万7000イリスですな」
「きゅうひゃく……ちょっと待ってください。最低落札額三つで70万イリスじゃありませんでしたっけ?」
「聖者様。オークションで最低落札額というのは目安に過ぎません。聖者様がお持ちになった宝石はどれも例のない粒揃い。しかも、いまは戦時中のため貴族も商人たちは宝石を買い求めています」
「戦時中に宝石を……何故?」
「貴族が万が一国を捨てて逃げ出すとなったとき、嵩張る金貨より、持ちだしやすい宝石を好まれるからでしょう。隠しても見つかりにくいですからね」
最悪パンツの中に入れても持ち出せる。
戦時中だと金貨よりも宝石の方が好まれるということか。
「それと、冒険者ギルドから伝言です。アイアンゴーレムの査定が終わったから確認してくれとのことです。中身は見ていませんが、それでよければサインをお願いします」
と俺は封筒を受け取る。
アイアンゴーレムの買取査定は――
「ごひゃくっ……っ!?」
572万4000イリス!?
お金の単位がイリスではなく円だったとしても、日本人の平均年収を越えるぞ。
「量が量ですからね。もっとも、次に同じ量を持って行っても半値以下の買い取りになるでしょう。それほどまでに鉄の価格が暴落しています。いやぁ、私どもも聖者様から事前に話を聞いていなかったら大損するところでしたよ」
どうやらポットクールさんは在庫の鉄をうまいこと売り抜けたようだ。
お金については問題ないのでサインをする。
ポットクールさんはそのサインをした紙を封筒に入れ部下の一人に預けた。
すると――
「え?」
ポットクールさんが連れて来た護衛達十人全員がその部下の人と一緒に帰って行った。
「彼らも一緒に行くんじゃないんですか?」
「ははは、私の護衛は皆さん三人じゃないですか。彼らが来たのは974万イリスを安全に運ぶためですが、どうしましょう? 聖者様が望むのであれば、彼らと一緒に町に行き、お金を金庫などに預けることもできますが――」
「ああ、大丈夫です。収納能力がありますから――」
と俺はお金を全部道具欄に入れた。
お金なので、道具とは別の項目に表示される。
総資産1000万イリスを越えたな。
称号の【金の亡者】をGET。
魔物討伐時の取得イリス+5%という効果がある。
初称号がこれって、なんか俺の印象が悪く感じるな。
なので、そのうち端数分はウサピーに預けて、村のために使ってくれと頼んだ。
きっと彼女なら有効的に使ってくれることだろう。
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