第166話 痕跡を見つけるのは地上に出たあとで
「ダイダラワームの粘液は乾燥しにくいですが、それでも何日もそのままになっているものではありません。最近ダイダラワームが通ったのは間違いないでしょう。それと、ダイダラワームだけではなく人のものと思われるにおいも残っています」
穴の中に降りて来たアムが言う。
ここをダイダラワームが通ったのか。
「トーカ殿はこの横穴の存在に気付き、穴を掘ったのか」
いえ、違います。ただの偶然です。
ただ、完全な偶然ではないと思う。
ダンジョンの壁というのはとても頑丈で、本来であれば簡単に掘ったりできるものではない(採掘ポイントは除く)。
どうやら、この横穴は南から北に続いているようだ。岬から一直線に進めば、ここに辿り着くかもしれないような位置関係。
川とダンジョンを真っすぐ超えるには、ダンジョンの下を掘って進むしかなく、労力を最低限に済ませようと思えば、ダンジョンギリギリの場所を掘り進むことになる。
高低差があり過ぎると、人が通る時に不便だからな。
不自然に掘られたトンネルと、ゲームシステムの穴掘りによる不自然な穴――その二つがつながった結果がこの開通だ。
「この匂い、ダイダラワームに呑み込まれたはずの仲間の臭いだ。間違いない! ここを通ったんだ!」
犬耳の獣人の騎士が興奮するように言った。
まだ行方のわかっていない騎士の仲間の臭いか。
「ここを通れば敵の拠点に辿り着くというわけだな」
「ええ。でも、もしも穴を通っているときにダイダラワームに穴を埋められたら」
「……大丈夫。崩落させられそうになったらミスラの土魔法で地面を固める。簡単に崩落したりしない」
「そんなこともできるのか?」
俺の問いに、ミスラはVサインをして「……余裕」とドヤ顔を見せた。
本当に今日は頼もしい。
何気にダンジョンに来てボス部屋に一度も行くことなく出るのは初めてだな。
地下トンネルは緩やかな上り坂になっている。
地上に出るまでは暫くかかりそうだ。
何人かが松明を使い、その灯りを頼りに進む。
「それにしても、こんなに大きな地下道があるのか。ラン島を再開発するときはここを利用して地下道を作ったりしたら便利かもしれないな」
「それができればいいんだが――」
この島の復興を願っているラッキー船長はどこか寂し気に言う。
諦めているのだろうか?
「ラン島は既にトーラ国の領土ではないのだ」
隊長さんが言った。
「そうなんですか?」
「ああ、ラン島を領土に置くと、その周辺に出る海の魔物の討伐もトーラ国がしないといけない。ラン島の港が使えなくなり、新たな航路の安全を確保するために、海軍を魔物退治に割けなかった。ラン島に再度クラーケンが襲ってこないとも限らないからだ」
「死の大地に封印されているという魔物が解き放たれたとき、矢面に立って戦いたくないからどこの国に属していないのと同じですか」
「申し訳ないがその通りだ」
申し訳ないと言ったのはラッキー船長に対してだろう。
そうか、ここもポーツ村と同じでトーラ国の領土じゃないのか。
俺の中で、一つの作戦が思いついたが、全部ポチを助けてからだ。
暫く進むと、地上に出た。
地上に上がるところには土嚢が積まれていた。
雨が降ったときに中に水が入らないための工夫なのだろう。
俺たちが見たのは街道――もといダイダラワームが這った痕だった。
少しぬかるんでいる。
この辺りだけ雨が降ったのかもしれない。
川の水嵩も増えているってラッキー船長が言っていたからな。
だから足跡も残っていた。
人間の足跡。
騎士に支給している軍靴のものだそうだ。
それ以外にも複数の靴のあと。
そして――
「豚の足跡か……グレイトピッグがいるんだな」
「……トーカ様、この足跡おかしい。グレイトピッグの物じゃないと思う」
「え?」
でも、どう見ても豚の足の形を――ってそうか?
普通、豚の足って四本足で歩いているのに、この豚の足跡はどう見ても二本足で歩いているように思う。
「オークの足跡だ」
騎士の一人が気付いた。
騎士の足跡と別の人間の足跡、そしてオークの足跡。
これはオークが従魔になっていると考えた方がよさそうだ。
オーク……そういえばメリサの従魔もオークだったな。
関係あるのだろうか?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます