第188話 俺がストーンゴーレムを倒すのはアイリーナ様のあとで
「へぇ、ダンジョンの入り口ってこんなに狭い場所なんですか」
岩の隙間がダンジョンの入り口だ。
知らない人には絶対に見つからない。
「大丈夫ですかね? ここのダンジョンに入ったら見失ったりして――」
だとしたら、俺たちは現れもしない暗殺者をずっとダンジョンの中で待ち続けることになる。
ただでさえ、彼女と一緒だったらボス周回やアドモン出しができないんだ。
その上、待ちぼうけなんて御免だぞ。
「平気でしょう。アイアンゴーレムのいるダンジョンの目ぼしは既にトランデル王国もトーラ王国も掴んでいます。それに私は特別な香水をつけています。鼻のいい獣人の方を連れて来れば直ぐに居場所に辿り着きます」
そういえば、さっきから少しいい匂いがするなって思ってた。
アムを見ると彼女は頷いたので、獣人なら後を追うことも可能か。
「そうだ、命を狙って来るのが獣人だったらラフレンキノコを投げれば――」
「ご主人様、それは――」
アムが俺の服を引っ張り、首を横に振る。
少し涙目だ。
アムが巻き込まれちゃうからダメだね。
ということで、ダンジョンの中に入る。
「ここがアイアンゴーレムのいるダンジョンなんですか。私の知ってるダンジョンと雰囲気は同じですね。魔力が濃くて気持ちいいです」
「魔力が濃い?」
魔力の濃度なんて俺にはわからないぞ?
「……ん。ダンジョンの中は魔力濃度が高いから、魔法が使いやすい。アイナはよくわかってる」
「おい、ミスラ。相手は姫様なんだから失礼だぞ」
「……大丈夫。ミスラとアイナは友だち。周囲に人がいないのならこの話し方で問題ない」
「はい。ミスラさんとはすっかり仲良くなりましたから問題ありません」
いつの間にそんな関係になったんだ。
と思っていたら、早速ストーンゴーレムが3匹出てきた。
「アイアンゴーレムではなくてストーンゴーレムなんですね」
「最初はこいつですよ。山のダンジョンは三階層まであって、アイアンゴーレムが出てくるのは三階層です」
「では、最初は私が戦ってもいいですか?」
殺し屋が来たときのために魔力を残しておいた方がいいんじゃないかと思ったが、そうなったときに戦うのは俺たちだから別にいいか。
彼女がポケットから取り出したのは小さな杖だ。
先端に魔石がついている。
「水よ――」
彼女がそう言うと水が三つ現れた。
ただし、バスケットボールくらいの大きさの水の塊だ。
「私の意のままに動いて」
そう言うと、水の塊がそのまま動いて3体のストーンゴーレムの顔に当たり、薄い膜のように広がって顔全体を包み込む。
地味な魔法に見えるが、獣相手だったら窒息させることができる。
ストーンゴーレムは呼吸をする必要はないが、その体内に魔力の水を染み込ませて魔力の流れを阻害することで動作不良を起こして殺すことができる――って前にミスラから教わったな。
少ない魔力消費量で相手を倒すための方法なのだろう。
「ミスラ、あの魔法をくらったらどうしたらいいんだ?」
「……魔力を顔に集めて発散させる。魔力の水ならそれで飛ばせる」
「俺、そんなのできる気がしないわ」
「……ん、そもそも食らわないのが一番。あの水に毒を含ませたら触れるだけで危ない」
水に毒を混ぜるって、そんな鬼畜な方法が――いや――
「まぁ、毒魔法ってあるからな」
「……毒魔法の魔導書希望」
「はいはい」
さて、ストーンゴーレムの死体だが、これは石材として使えるからな。
「アイリーナ様、このゴーレムは村で買い取りさせてもらってよろしいですか?」
「ええ、構いませんが、でも持って帰るのが大変でしょう?」
「大丈夫です。収納の能力がありますから」
と言って、ストーンゴーレムの死体を3体とも道具欄に収納する。
ストーンゴーレムを収納すればアイアンゴーレムを収納できないのではないか? と言われたが、適当に誤魔化した。
この世界の収納能力と道具欄による収納は違う。
ストーンゴーレムで一枠確保したら、ストーンゴーレムを999体保存するのも1体保存するのも同じだ。
誤魔化し方が悪かったのか、俺の収納能力の容量がかなり多いと思ったようで――
「なるほど、さすがはトーカ様。聖者の名は飾りではないということですね」
と何か納得していた。
と思っていたら、またストーンゴーレムが来た。
この階層、ストーンゴーレムが多いから早く抜けたいな。
「アイリーナ様、魔法を使いますか?」
「すみません、連続では使えないんで」
「じゃあ、俺が倒しますね。ウォーター「……トーカ様、ちょっと待って」ガン」
ミスラに止められたが、そのまま魔法を打ってしまう。
俺の手から出た水がストーンゴーレムの顔を打ち抜いた。
うん、倒したな。
やっぱりストーンゴーレムには水魔法だな。
「では、行きましょうか……アイリーナ様?」
「な……なんですか、今の魔法は」
「え? ただの水魔法ですけど」
「ただの水魔法って、私の知る魔法体系と全く違う未知の魔法がただの水魔法なわけないじゃないですか!」
彼女が興奮するようにそう言う。
あ、そういえば俺の使う魔法とこの世界の魔法って違うんだっけ?
ミスラが俺を止めようとしたのはもしかしてそれが原因?
……どうやら、俺に知能デバフが掛かっていたようだ。
やっちまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます