第16話 アムの加入は虚言のあとで-1

少し短めです。

――――――――――――


「あるじ、アム、おかえりなさいなのです」

「ただいまポチ」

「お邪魔します、ポチさん」


 俺はポチの頭を撫でる。

 家に帰ってからポチの頭を撫でるのが日常になっていた。

 この家には客間というものはないので、食卓に向い合せに座った。


「野草茶なのです」


 ポチが適当に摘んできて乾燥させていた野草がお茶になった。

 そろそろ飲めるって言っていたが、この場で出てくるのか。

 アムに毒見をさせるわけにもいかないので俺が先に野草茶を飲む。


 ……え? なにこれ、うまっ!?


 日本茶とは違う。

 独特な刺激が少なく喉にスーッと入っていく。


「あの、聖者様」

「遊佐紀冬志だよ」

「え?」

「冬志ってのが故郷での名前なんだけど、こっちではトーカって名乗ってる」

「トーカ様」

「いや、様はいらない。てか、そういう話をしたいんじゃなくて」


 俺は何故彼女を奴隷から解放させようとしたのか?

 いくら仲良くなったとはいえ、会ったばかりの少女だ。

 その理由はわかっている。

 彼女は俺と戦えたことを一生誇りとして生きていくと言った。

 それが俺には我慢できなかった。

 俺がやってることは所詮はゲームの真似事。

 たまたまこの世界に召喚されただけのただの元高校生だ。

 彼女を解放し、そう伝えたかった。

 だが、彼女を解放することはできなかった。

 俺の奴隷にしてしまった。

 だったら、俺はなるしかないのだ。

 彼女が本当に仕えてもいいと思える人間に。


 蒼剣シリーズは役割ロール演じるプレイングゲームなのだから。


「アム。話を最後まで聞いてくれ。俺の奴隷になりたくないって言うのならポットクールに返す。というか、ポットクールのところに戻ったほうがアムは幸せだと思う」


 俺の演技、俺の気持ちとは逆の、まるで天邪鬼のような言葉から始まった。


「俺はこの世界の人間じゃない。女神アイリス様の導きにより地球という異世界から死の大地へと召喚された異世界人だ」

「……異世界人」

「召喚した人間の目的はわからない。だが、いたずらに召喚したなんてことはないと思う。俺にはきっと使命があるんだと思う。その使命が訪れたときのために、俺は共に戦う仲間を得て、そして強くならなければならない。アムにはその仲間になってほしいと思っていた。でも、それは楽な戦いばかりではない。実際、俺にはまず、ゴブリンキングを倒すという啓示が下っている。アムを傷つけたゴブリンキングを。きっとその後も様々な戦いに身を投じることだろう。だから、アムには選んでほしいんだ」


 彼女の銀色の双眸を見て言う。


「俺と一緒に戦うか、それとも戦わないか」


 俺はズルい。

 卑怯者だ。

 だって――


「戦います」


 彼女はそう言うに決まってる。

 こんなのは説得じゃない。

 ただの詐欺だ。


「聖者様と、いえ、ご主人様と共に戦わせてください」


 俺の言葉は嘘ではない。

 全て事実のまま語っている。

 だが、虚言だ。

 そこに俺の意思は一つも介入していない。

 だって、俺はただ選んでほしかったのだ。

 彼女に――アムに、俺と一緒にいるという選択肢を。


「ありがとう、アム。これから戦おう」


 罪は俺が背負う。

 この世界に召喚された神の遣い、聖者としての役割を演じる。

 それが俺に与えられた罰であり、そしてそれが女神に望んだことなのだから。

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