第270話 サービス回はボス戦のあとで

 リザードマンの群れとの戦っていた。

 見た目は普通のリザードマンより少し大きいくらいだけど、知っているリザードマンより遥かに強い。

 リザードマンレベル20といったところか?

 さっきのステンレスクロコダイルに比べたら雑魚だけど。


 背後に忍び寄っていたリザードマンを攻撃しようとしたその時、そのリザードマンが俺の影の中に呑み込まれていく。

 沼に落ちるというより、落とし穴に落ちたようなそんな感覚。

 そして、影の中からリザードマンが持っていた剣や着ていた鎧が吐き出された。

 ノワールの奴がつまみ食いしたらしい。

 試しにリザードマンの死体を転がしてみると、また影の中に落ちて、同じように異物が吐き出される。

 うちのペットは食いしん坊だ。

 三体目のリザードマンは影の中に入らなかった。

 お腹いっぱいになったのか、それともリザードマンが飽きたのか。

 しかし、影の中からゲップが聞こえてくるような食いっぷりだ。

 俺がノワールの食いっぷりに感嘆している間にリザードマン退治は終わっていた。

 ステンレスクロコダイルは強かったが、アドモンはダンジョンの難易度の外にいる魔物だからあれを抜きにして考えると、中難易度のダンジョンといったところか。

 ここでなら、俺抜きでも皆が後れを取ることはないだろう。

 むしろ厄介なのはこの湿度だな。

 汗が止まらないから、自ずと水分を補給する時間も多くなる。

 うーん、ダンジョン攻略はやっぱり楽しいが、このダンジョンは周回したいとは思わないな。

 そろそろボス部屋だろうし、そこで二回戦ったら帰ろうか。

 アムは周回したがるかな?

 ミスラは少し辛そうだ。

 マントとか魔法使いの帽子とかってこういう場所には向いていない。

 脱いだらいいのに。

 そう思いながら、ボス部屋に辿り着いた。

 ライオンの頭、山羊の胴体、蛇の尻尾を持つキマイラと言う名前の魔物だった。

 いろいろ合わさった魔物だが、しいて言えばそれだけ。

 やっぱりステンレスクロコダイルより弱かった。

 強いて言えば蛇が吐き出す猛毒の息は厄介だが、尻尾を斬り落としてしまえば問題なし。

 作戦では俺とハスティアが一度攻撃し、アムが大きめの一撃を入れたあと、ミスラが魔法をぶち込む予定だったが、アムのトールハンマーで麻痺が入ってしまい、魔法による援護が要らない状態になってしまった。

 麻痺が解ける前に難なく倒せた。

 宝箱は金色一個、銀色一個だった。


「ノワール、食べるか?」


 キマイラの死体を見て影の中のノワールに声をかけるが、反応はない。

 聞こえていないのか、それともゲテモノに興味はないのか。

 とにかく、死体は道具欄に入れておく。

 さて、金色――ってあれ? 金色宝箱の前にはアムしかいない?

 いつもはミスラも一緒にいるはずなのだが。

 と思っていたら俺の後ろにいた。


「……活躍できなかった」

「なんだ、戦えなかったこと言ってるのか? そういうときもあるだろ」

「……次、頑張る」


 なんてこともあり、宝箱を開ける。

 今回は麻痺を入れたアムに宝箱を開ける権利を譲った。

 中に入っていたのは――


「これは? ライオンの顔ですか? キマイラを倒したからでしょうか?」

「これは獅子温泉だな。風呂に設置すると温泉が湧き出るようになる。ゲームだと宿屋なんかに設置したら集客力が上がって収入が増えるんだが、町に公共浴場を作るのもいいな」

「温泉ですか。それは素晴らしいですね。でも、何故ライオンなのですか?」

「それはお約束ってやつだ」


 なお、銀色宝箱からは高級ペットフードが出た。

 こちらもノワールは興味を示さない。

 ペット枠とはいえ、犬猫用だし、ゲーム内でもドラゴンにペットフードはあげれなかった。

 これはパトラッシュへのお土産ということでミスラ行きだな。


「じゃあ、二周目行くぞ。ミスラ、先制パンチ食らわせてやれ」


 俺の迂闊な発言のせいだろうか?


「……魔力増幅――炎よ顕現せよ」


 煉獄といってもいい規模の炎がキマイラを飲みこんだ。

 先制パンチにしては強力だろう。

 その後の展開を記す必要はない。

 一周目以上に楽に終わった戦いで、宝箱は全部茶色かった。

 焦げたキマイラと同じ色だ。


「本来ならこれで終わりだが――あれがあるからな」


 ボス部屋の奥に扉があるのだ。

 このダンジョン、続きがあるのか?

 こうなったら行くところまで行くしかないだろう。


 そう思って扉の向こうを見ると、そこは大きな部屋いっぱいにお湯が溜まっている空間だった。。

 この臭い、もしかして――


「……なに、この臭い」

「何かが腐ったような臭いですね……鼻があまり利きません」

「なんだ、二人ともこの臭いを知らないのか?」


 ミスラとアムはこの臭いを知らないが、ハスティアは知っているようだ。


「うん、これ、温泉だな」


 お風呂に入りたいと思っていたし、獅子温泉が出たが、まさかダンジョンの最奥に温泉があるなんてな。

 どうやらここが行き止まりのようだ。

 ダンジョン攻略が終わったらゆっくりお風呂に入って行けっていう粋な計らいだろう。

 ここに来て温泉回か。

 全12話のアニメだったら10話目くらいに無理やりねじ込まれるサービスシーンだな。

 ハスティアの裸はこれまで見てこなかったが、こんな場所に男湯も女湯もない。

 仕方ない、そう、仕方ないのだ。


「じゃあ、みんなで風呂に入ろうか」

「待ってください、ご主人様。その前に敵がいないか調べてもらえませんか? お湯の中から出てきたら困ります」

「うっ、確かに温泉ワニって魔物もいるからな。待ってろ」


 地図を広げる。

 ――ん?

 敵の反応が――ってこれなんだっ!?

 強敵の反応が。

 しかもこっちに近付いてくる。


「警戒しろっ! 強敵が来る!」


 剣を構える。

 湯煙の向こうに人の形をした影が見えた。


「あら、珍しい客ね。どうして私がここにいることがわかったのかしら?」


 そう言って現れたのは一人の美少女だった。

 一糸纏わぬその姿に、しかし俺は見惚れることができない。

 何故ならそいつは――


「スクルドっ!?」


 邪神スクルドだったから。

 サービス回かと思ったら、ラスボス戦の幕開けとか冗談じゃないぞ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る