第46話 契約魔法は年齢確認のあとで

 いざ、ダンジョンに入ろうと思ったとき一つ大きな問題が起きた。

 ダンジョンに入るには冒険者ランクがDランク以上の同行者、もしくは貴族の許可が必要だというのだ。

 アムが以前来たときにはそんな決まりはなかったそうだが、最近できた決まりらしい。

 弱い子供たちが一攫千金を求めてダンジョンに入っていき、死んでしまう事故が絶えなかったそうだ。

 その事故を防ぐために三年前にそのような規則ができたという。

 先ほどの子供たちも、元々はダンジョンの中で勝手に冒険者についていっては、冒険者たちが持ちきれなくなった魔物の素材などを勝手に持っていく”骨拾い”と呼ばれる仕事をしていた子供も多かったらしい。たぶん、子供が死ぬ事故というのはそこで起きたのだろう。

 魔物に殺されたのか、骨拾いを疎ましく思った冒険者に殺されたのかはわからないが。

 とにかく、事情はわかった。

 問題は、冒険者ギルドのランクがDランク以上必要ということだ。

 冒険者ランクはAから強い順番にB、C、D、E、Fと分かれている。Sランクはないが、名誉ランクとしてAAランクは存在するという。

 昨日今日冒険者ギルドに登録して、いきなりDランクの冒険者になれることはないそうだ。

 最短記録で一週間、普通は実力者でもFランクからスタートし、一カ月かけてDランクにあがるらしい。

 ダンジョン探索は無理ということになる。

 が、諦められない俺は、アルフレッドさんに相談に行った。


「なるほど。では冒険者を雇うのはいかがでしょうか?」


 アルフレッドが提案してきた。

 それは俺も考えていた。

 小さな子供たちがウィル・オ・ウィスプの囮としてついていくことができるのだから、同じように冒険者を雇って、彼をリーダーとしてダンジョン探索に行けばいいと。

 だが、問題がある。

 俺がダンジョンを攻略したら宝箱が出る。

 できれば、これはアム以外の人には知られたくない。

 

「ダンジョンに入るまで仲間でいてくれる冒険者とかいませんかね? 入ったらそこで解散とか」

「……それはあまり勧められた行為ではありませんね。規則的には問題なくても、倫理上の問題になるとその冒険者の信用にかかわりますので」


 アルフレッドが目を閉じて首を振った。

 確かに、安全のために強者との同行を義務付けているのに、その強者がさっさと同行者を放り出すような行為を行うと冒険者の信用は失う。


「聖者様は、他人に知られたくないことをダンジョンで行うから、他の冒険者についてきてほしくないわけですね?」

「ええ、そうです」

「でしたら、適任の冒険者がいます」

「本当ですか?」

「はい、ミスラという少女です。彼女は少々変わり者でして……魔法の研究に一生を費やすと豪語する魔術オタクなのです。彼女は契約の魔法を使えますから、秘密の口外を禁止する魔法を使わせて、同行させればそこで得た情報を他の誰かに漏らすことは絶対にありません」

「契約魔術……そんなのがあるのか……」

「ご主人様、私の奴隷の魔法も契約魔法の一種です」

「そういえばそうだったな」


 ちなみに、俺は先ほど間違えたが、契約魔術ではなく契約魔法が正解。

 魔術とは魔力による現象のことで、人間の力で魔法を使えるようにするためのすべのことを魔術と呼ぶらしい。閑話休題。

 でも、そのような依頼を引き受けてくれるのかと言ったら、そこはアルフレッドがついているから大丈夫だという。


 アルフレッドを信じて、そのミスラという冒険者のいる家に向かった。

 そこは小さな家だった。

 扉をノックするも返事はない。

 アルフレッドはため息をついて、パンを取り出す。


「はぁ、仕方ありませんね。ミスラさん、ご飯ですよ」


 アルフレッドがそういうと、突然家の扉があいた。

 出迎えたのは、十三歳位の見た目の緑髪の少女だった。

 彼女がミスラさん?


「……ご飯?」

「こちらをどうぞ」


 アルフレッドが焼いた肉を挟んでいるパンを差し出すと、彼女はそれを受け取り、口に入れた。

 すると、直ぐに咽たので、アルフレッドは皮の水筒を差し出す。


「……ごちそうさま。さようなら」

「扉を閉めないで下さい。仕事です」


 パンを食べ終えた彼女は扉を閉めようとするが、アルフレッドがそれを阻止した。


「……ミスラ、いま本を読んでいるから」

「家賃、払ってませんよ? 追い出されたいのですか?」

「……何の仕事?」

「彼らと一緒にダンジョンに行ってください。ただし、契約魔法を結んで、中で見知った彼らの情報は誰にも話さないと約束していただくことが条件です」

「……報酬は?」


 彼女が小さな声で尋ねるので、俺はここに来る途中にアルフレッドから聞いていた相場の額を伝える。

 彼女は小さくため息をつき、


「……ミスラの名前はミスラ。魔法研究家」

「俺はトーカだ。剣と魔法の両方を使う」

「私はアムルタートと申します。今日は短剣を使っていますが、得意な武器は剣です」

「……じゃあ、行こう。時間が勿体ない」


 彼女は魔法使いが被るような三角の帽子を被り、長い杖を持つ。


「待ってくれ。先に契約魔法を……とその前に大丈夫なのか? えっと……」


 いくら魔法が使えるといっても、子供だろ?


「……ミスラはハーフエルフ。あなたよりずっと年上」


 ……ハーフエルフっ!?

 そうか。

 見た目は子供だけど、実は俺より何倍も生きて――


「……これでも十八歳」

「タメだよ!」

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