第8話 作物の収穫はダンジョン偵察のあとで
村に来て三日目。
俺が能力を使った畑の作物はやはり急成長を見せた。
明日には収穫できるかもしれない。
そして、俺とアムは二人でゴブリンのいるダンジョンに向かった。
ゴブリンキングと戦うにはまだ早い。
ただ、確認しておきたかったのだ。
蒼の石と紅の石が手に入るかどうかを。
ゲームだと最初のダンジョンで手に入ったが、ここではどうだろうか?
ここで確認。
「アム、ダンジョンの定義ってなんだ?」
「ダンジョンとは二つの要因により、魔物が恒久的に発生するようになっている場所だと言われます」
「二つの要因?」
「要因は迷宮型と巣窟型の二種類に分かれます。ダンジョンコアと呼ばれる瘴気の塊が結晶化した物が洞窟などの空間を生み出し、そこに魔物や宝箱を発生させるのが迷宮型。既にある洞窟などに魔物が入り込み、そこで魔物が増殖するのが巣窟型です。一般的にダンジョンと呼ばれるのは前者の迷宮型のものを指しますが、これから行くのは後者の巣窟型のダンジョンです」
つまりは、ただのゴブリンの巣ってことでいいのか。
だとしたら、蒼の石や紅の石の入手は難しいかもしれないな。
ただし、今回の作戦ではむしろそっちの方が好都合だ。
と、ダンジョンの前に到着した。
まだ気づかれていないが、入り口のところにゴブリンが二匹、見張りをしている。
マップを確認する。
「うじゃうじゃいるな。ざっと百匹はいるんじゃないか?」
「聖者様、わかるのですか?」
「うん、俺の能力でな……雑魚がほとんどだが、かなり強いのが一匹、これがゴブリンキングか」
マップによる確認。
蒼剣のシステムではダンジョンの中をマップで確認できるのは同じ階層の周囲数十メートルに限られるが、今回はダンジョンと呼ばれているが実際はただの洞窟のため、こうして全体が確認できるのだ。
しかし、この洞窟、思ったより広いな。
それに、あちこちに出口がある。
これだと、入り口で焚き火をして中にいるゴブリンを炙り出す戦法は取れそうにない。近くに水場がないから、水攻めも当然無理だ。
「そこそこ強いのがキングの周りに四匹いるな……四天王か?」
「マザーゴブリンですね。マザーゴブリンはゴブリンキングの傍にいることにより進化したゴブリンの雌と言われています。通常のゴブリンより多くの子供を産み、大量発生の原因の一つとなります」
おう、四人の嫁持ちか。
さすがキングだ。
大量発生を止めるには、ゴブリンキングだけでなく、そのマザーゴブリンも倒さないといけないってことだな。
「さてと、じゃあ行くか」
「はい」
俺とアムは走った。
まずは見張りのゴブリン二匹は俺とアムがそれぞれ一匹ずつ倒す。
だが、俺がゴブリンを倒す前に、見張りのゴブリンが声を上げた。
仲間を呼んだのだ。
「聖者様!」
「大丈夫だ。キングもマザーも動いてない。このままここで倒すぞ!」
「はい!」
中から押し寄せてくるゴブリンたちを、俺とアムの二人は防いでいた。
アムは剣を両手に持って戦っている。
ゴブリンキングとの戦いで失った剣の代わりに、昨日俺があげた錆びた剣を研いで使っているらしい。
もともとボロボロの剣だったので、研いだところで攻撃力2くらいの剣にしかならないだろうが、見事に使いこなしている。
もう一本の剣はそこそこの業物だな。
ステータスを見ると、装備は「ボロの剣」と「鋼鉄の剣+3」となっている。
腕のいい鍛冶師が作ったのだろうな。
「アム、やっぱり強いな」
「聖者様ほどではありません」
「ステータスではそうだけどな」
戦い慣れているという点ではアムには全然敵わない。
俺はステータスの上でのごり押しみたいなものだから。
アムからは平然と戦っているように見えるのかもしれないが、正直、殴られるのが怖い。
スライムに攻撃されたときの痛みは今でも覚えているからな。
「アム、ゴブリンキングが移動を始めた! 逃げるぞ!」
「はい!」
雑魚ゴブリンだけではどうしようもならないと感じたゴブリンキングが移動を始めたので、俺たちは走って逃げた。
ゴブリンたちは追ってこない。
巣の奥には生まれたばかりのゴブリンがいるからな。それを守らないといけない。
そうアムに教わった。
ゴブリンキングが子育て熱心というのは意外だった。
無事に逃げ切った俺は村に戻ると戦果を確認した。
そこでさらに発見。
アムが倒したゴブリンの分のお金も増えている。
やはり、仲間が倒した魔物で得られる分のお金も俺のものとしてカウントされるのだろう。
そして、道具欄を見ると、錆びた剣ともう一つ、それがあった。
俺は道具欄からそれを取り出す。
茶色い金属の腕輪――銅の腕輪だ。
ゴブリンのドロップアイテムで、入手確率は約5%。
防御力は2。
比較的手に入れやすいアクセサリーだ。
さて、ここからが宝くじの時間だ。
魔物が落とすアクセサリーの中には、時々特別な力が備わっているものがある。
装備するか鑑定してみないとわからない。
中には呪われているものもあるが、銅の腕輪の場合はデメリットのある付属効果はなかったので、そこは安心だ。
腕輪を着けてみる。
付属効果は【毒耐性・弱】か。
何もないよりはマシだな。
拠点に錬金工房ができたら、合成して完全毒耐性の腕輪を作るのもいいだろう。
「聖者様、その腕輪は?」
「銅の腕輪。効果は防御力アップと毒耐性・弱」
「魔法の腕輪なのですか!?」
「いやいや、普通だろ」
「毒などの状態異常を防ぐ力のあるアクセサリーは全て魔法の道具と言われていて、高価なものだと言われています」
「え? そうなの?」
この程度で高価な品って言われても。
完全毒耐性の腕輪とか出したら国宝とか言われそうだな。
「教えてくれてありがとう。助かるよ」
「お役に立てて光栄です」
アムはそう言って恭しく頭を下げる。
もうちょっと距離が縮まったらいいんだけどな。
村に帰った俺たちは畑仕事を手伝った。
俺がいる間に畑の面積を広げようと村人たちが頑張って耕したのだ。
結果、水を撒く作業も忙しくなる。
村人たちに、「雨の日以外に水を撒くのを忘れると、枯れてしまう可能性が高い」と警告したから、全員必死に水を撒いている。
俺も手伝った。
村人たちは「聖者様に手伝わせるわけには」と言っていたが、農業の技能経験値のために頑張らせてもらった。
そして、翌日。
一部の作物が収穫期を迎えた。
カブだ。
「へぇ、うまそうに育ったな」
純白でツヤがあり、肉質で緻密でやわらかそうだ。
漬物にしたい。
「聖者様はカブを食べるのか?」
「ああ、結構好き……って、みんなは食べないのか?」
俺の問いに村人たちは頷いた。
まったく食べないことはないのだが、カブは山羊の餌として育てているらしい。
「酢漬けにしたら美味しいんだが」
「酢も貴重です。そのまま食べると苦味と辛味が強いですから」
「ああ、そういうことか……」
葉っぱは塩もみして灰汁抜きすれば食べれるが塩も貴重かもしれないな。
とりあえず試しにと、俺は許可を貰って水で洗ったカブを一口食べてみた。
「甘っ! え!? 全然苦くないし辛くもないぞ」
「聖者様、本当か?」
「ああ、みんなも食べてみろよ」
俺がそう言うと、村人たちは半信半疑というより疑いの方が強い感じだったが、真っ先にアムが食べた。
「とても甘いです。私が知っているカブと全然違います。」
その言葉をきっかけに、村人たち全員がカブを食べ、その食べやすさに驚いた。
本当に甘くておいしい。
ここから砂糖を作れるんじゃないかってくらいの甘さだ。
あぁ、逆に卸して大根の代わりに焼き魚に載せたり天ぷらと一緒に食べるのは難しいかもしれないな。
そう思いながら、俺はカブを一つまるまる食べてしまった。
今日の食事はこれでいいや。
「あるじ! 僕ももらっていいですか?」
「うん、いいぞ」
「いただくのです」
ポチが尻尾を振ってカブを食べる。
可愛い奴だな……って、ポチ?
「ポチ、お前がここにいるってことは?」
「もぎゅもぎゅ。ふぁい。あういのいえが――」
「食べてからでいいぞ」
「もぎゅもぎゅ、ごくん。はい、主の家が――」
そうか、今日はポチが家を建て始めてから三日目。
俺の家が完成したのだ。
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本日更新1話目、今日はもう1話更新予定。
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