第7話 アムの訓練はパーティ登録のあとで

 俺は建築現場に向かった。

 ここが俺の家の建設予定地だというのは知っていたのか、建設現場を見てもアムは何も言わなかった。


「ポチ! ちょっと来てくれ!」

「はい、あるじ!」


 天幕の中からポチが顔だけ出す。

 可愛いな、もう。


「アム――彼女とパーティ登録したい。できるか?」

「もちろんなのです! はい、終了しましたのです。仕事に戻っていいのですか?」

「ありがとう。仕事に戻っていいよ」

「戻るのです!」


 ポチはそう言って仕事に戻った。

 これでOKか。


「聖者様、いまのはなにを?」

「パーティ登録したんだ。アム。君のステータスを見せてほしい」

「すてーたす……?」

「あぁ、俺には仲間の力を数値化してみることができるんだ」

「わかりませんが、聖者様の望みならばどうぞご覧ください」


 許可を貰ったのでアムのステータスを開く。

 アムは特に反応を見せない。

 たぶん、このスーテタス画面は俺にしか見えていないようだ。


―――――――――――――――――――――

名前:アムルタート

種族:妖狐族

職業:村人

レベル:5

体力:30/30

魔力:1/1


攻撃:30

防御:20

俊敏:40

運:20


装備:無し

称号:無し

―――――――――――――――――――――


 妖狐族って種族なのは聞いていた通りだな。

 能力も技能もないのに魔力以外は結構強い。

 単純にレベルによるステータスだったら彼女の方が遥かに上だな。

 彼女が俺のように技能を取得できたら、あっという間に俺を抜くな。

 

「アムは村の中で一番強いんだよな?」

「はい」


 つまり、村人のステータスは彼女より低いと。

 たぶん、大きな町に行けば俺やアムより強い人間は五万といるだろうが、俺がそこそこ強いというのは間違いないようだ。


「アムはこれまでゴブリンを倒してきたんだよな? 何匹くらい倒した?」

「ダンジョンで三十匹程。それ以前は週に五匹ほど。ゴブリン退治を始めたのは三年前からですので――」

「単純計算で…………………………………………800匹くらいかな?」


 暗算に自信がないので少し時間がかかった。

 俺が倒したスライムの数より多い。

 ゴブリンの方がスライムより経験値が多いのに。

 ということは、この世界の人間は俺よりレベルが上がりにくいのかもしれない。


「アム、武器は何を使ってるんだ?」

「私の武器は二本の剣です。もっとも、一本はゴブリンキングとの戦いで損傷し、使い物にならなくなってしまいましたが」

「双剣使いだったのか……わかった。じゃあ、ちょっと試しにしてほしいことがあるんだ」


 俺はそう言うと、錆びた剣を取り出した。


「聖者様、その剣――収納能力をお持ちだったのですか?」

「ん? 収納能力を知ってるのか?」

「はい。とても珍しい能力だと聞いています。さすがは聖者様です」


 そうか――能力は一般的に知られているのか。

 どうやって出したのかと聞かれたら神の奇跡だとか言って適当に誤魔化すつもりだったが、今度からは収納能力だと言わないとな。


「アム、じゃあちょっと実験をしたいから手伝ってほしい。この剣を使って俺と一緒にさっきの岩を殴ってほしいんだ。剣が折れても構わないから。どうせ処分するつもりの剣だったし」

「かしこまりました」


 そして、俺とアムは二人で岩に戻り、岩を殴り続けた。

 それで何がわかるのかというと――俺の短剣術技能のレベルが2になったとき、アムが技能を取得した。

 剣術技能を。

 採掘技能は取得できていない。

 蒼剣の中でも仲間として加入するNPCは生産技能と一般技能を取得できなかったので、そのためだろう。

 ただ、これも妙な話が二つある。

 まず、剣術技能のレベル。

 彼女は俊敏が高いお陰で、俺より多くの回数攻撃することができる。

 なのに、いまだに剣術技能は1のまま。

 そして、採掘技能は取得できていない。

 どういう理由かはわからないが、ここまでのことから判断すると、


・この世界の人間は俺とパーティを組むことで技能を取得できる。

・この世界の人間が取得できる技能の種類は個人差がある、もしくは限られている。

・この世界の人間は技能レベルが上がりにくい。


 と考えてよさそうだ。


「今日はありがとう。いろいろと参考になったよ」

「聖者様のお役に立てたのなら幸いです。聖者様は普段、このような修行をされているのですね。私も心なしか強くなった気がします」

「……うん、まぁね」


 俺は適当に頷き、保存食のスナックバーを取り出す。

 と、アムの目が俺のスナックバーに釘付けになっているのが見えた。

 もしかして――


「アムも食べたいの?」


 そういえば、アムにスナックバーを一本あげたんだっけ?

 山羊の乳と混ぜて飲んでもらったけど、その時に味を覚えたのかな?


「い、いえ! 滅相も――」

「いいよ。まだたくさんあるから一本あげる。今日付き合ってくれたお礼だからその対価として受け取ってよ」

「しかし――」

「じゃないと、俺もアムを治療した対価受け取らないよ?」

「それだと一方的に聖者様が損をするだけでは?」

「じゃあ命令。食べて」

「……いただきます」


 アムは観念したように、だが嬉しそうに尻尾をパタパタさせてスナックバーを受け取った。

 その尻尾を見ていると、キツネというより犬みたいだな。


「これは私が今朝食べたものと違いますね。干した果実が入ってるんですか?」

「それも美味しいでしょ。まぁ、俺は食べ飽きたんだけど」

「はい、とても美味です」


 アムは味わうようにスナックバーを食べた。

 その後、村人たちが昨日と同じような食事を用意してくれたので、それもご馳走になった。


「そうだ、村長さん。聞きたいことがあるんですけど」

「なんだ?」

「ゴブリンが住んでるダンジョンってここから遠いんですか?」

「いや、歩いて三時間程だ。って、聖者様、もしかして――」


 村長の問いに俺は頷いた。


「ええ、明日ちょっと様子を見にいってみようかと思いまして」

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