第14話 アムの解放はお金を貯めたあとで-1

「砂金の価格は1000イリス。純銀の短剣は2000イリスですね」


 ポットクールが俺に査定額を伝えた。


「もう一声!」

「いやいや、聖者様、無理ですよ。砂金の買い取り価格は国で決まっています。金貨の価値を一定に保つためで、絶対に変えられません。純銀の短剣についても限界です」


 ゲームだと砂金の買い取り価格は1000ドラゴだった。イリスとドラゴ、だいたい同じ価値ってことか。

 いや、ゲームだとポーションは100ドラゴで販売されていたし、このあたりはゲームとは異なるな。


「あと買い取ってほしいとすれば、この大蛇は買い取れるか?」

「聖者様は収納能力持ちでしたかっ! いやぁ、羨ましい。肉は腐ってしまうので買い取れませんが、鱗でしたら剥がしていただけたら買い取らせていただきます。一匹分で500イリスといたしましょう」


 それが安いか高いかはわからない。

 ダメ元で村長に尋ねると、相場より高いと返答があった。

 前にアムが倒したことがあり、その時の鱗の買い取り価格は300イリスだったそうだ。


「200イリス高い理由を聞いてもいいですか?」

「情報は商人にとって命の次に大事なのですが、聖者様相手ですからお教えしましょう。間もなくトランクル王国で戦争が起こるのですよ。そのため、防具の素材となるジャイアントスネークの鱗の需要が高まっているんです」

「トランクル王国?」

「おや、ご存知ない?」


 ポットクールは地図を取り出す。

 とても簡易な手書きの地図だ。


「ここがこの村です。そして、トランクル王国はここですね」


 つまり、村の東の国ってことか。

 かなり近い大きな国だ。


「ってあれ? じゃあこの村はどの国の所属なんだ?」

「聖者様、この村はどこの国にも属してない」


 そう言ったのは村長だった。

 どこの国にも所属していないって、どういうことだ?


「死の大地に近いからな。どこの国もこんな場所を領地にしたくないのさ。だから、税金も支払わなくてもいい。死の大地の結界の周囲には、そういう村がいくつもある。もっとも、国が守ってくれないから、野党や魔物に襲われたときは自力で守るか、金を払って冒険者を雇うしか方法がないという問題もはらんでいる」

「もちろん、ただ見逃しているわけではなく、死の大地に異変が起こった場合、即座に隣国に報せを送る義務が課せられています」


 ポットクールが続けていった。

 つまり、この村は死の大地からの防波堤みたいな役割もあるのか。

 とりあえず、ジャイアントスネークは村人たちが鱗を剥がしてくれることになった。


「ポーションを3本の買い取りもお願いします」

「これはいったいどこで?」

「秘密です。品質は確かでしょ?」

「はぁ……あまり大量に魔法薬を扱うと薬師ギルドに目をつけられるのですが。わかりました。こちらも一本1200イリスで買い取りましょう。ただし、私以外には売ったりしないでくださいよ。知らないところで取引されて、魔法薬が値崩れしたとなったらこっちは商売あがったりですから」

「わかりました。ポットクールさんが高く買い取ってくれると信じている限り、そんなことはしません」

「お願いします」


 糸束とか蝙蝠の牙のような素材についてはまとまった量がないと取り引きできないと言われたので買い取ってもらえなかった。


 ダンジョンに行く前の所持金は10200イリス

 ダンジョンの魔物を倒して12000イリスにまで増え、宝箱から500イリスを手に入れ12500イリス。

 砂金:1000イリス。

 ジャイアントスネーク:500イリス。

 純銀の短剣:2000イリス。

 ポーション3本:3600イリス。

 合計:約19600イリス。


 目標額までまだまだ遠いな。


「最後に、これは売るとは決めてないんですけど、買い取り価格を聞いていいですか?」

「おお、書物ですか。見せてください」


 俺は魔導書を取り出してポットクールに渡した――のだが、魔導書はポットクールの手をすり抜けて落ちた。


「え?」


 ポットクールは魔導書を拾おうとするが、その手をすり抜ける。

 俺が拾うと、普通に拾えた。


「聖者様、これはいったい?」

「すみません。今見たことは忘れてください」


 俺はいそいそと魔導書を鞄に入れる。

 ポットクールはそれ以上何も追及してこなかったが、絶対怪しんでるよな。

 魔導書はゲーム内でも登場したが、入手できるのは一度切り、主人公にしか使えず捨てることも売ることもできない貴重品の扱いだった。

 つまり、魔導書は俺以外の人間には触れないってことか。

 だったら、遠慮なく使わせてもらおう。


 翌日、俺は一人でダンジョンに潜った。

 真っすぐボス部屋に行き、ジャイアントスネークと戦う。

 戦いにもだいぶ慣れた。

 まず、ファイアボールが想像以上に強かったのだ。

 魔導書はこちらの言語で書かれていたが、共通言語把握の能力のお陰で読むことができた。そして、読むことができたら内容がわからなくても、なんか魔法を覚えることができた。

 ファイアボールという魔法だが、放たれる火の玉はボールというにはいささか大きい。

 クレイゴーレムすらも飲みこむ巨大な火の玉だったのだ。

 きっと俺の魔力が影響しているのだろう。

 ジャイアントスネークも最初のファイヤボールを使ってダメージを与えてから、ジャイアントスネークの攻撃を躱し、斧でトドメを指すという流れが出来上がった。

 火魔法の技能も上がり、魔力はさらに上がっている。


 五周して、茶色の宝箱が14個に銀色の宝箱が1個出た。

 銀色の宝箱からは、道具枠拡張の巻物が出て、道具枠が8から9になった。

 茶色の宝箱から出たのは以下の通り。


 1000イリス:1

 500イリス:3

 砂金:2

 ポーション×3:1

 ポーション:2

 魔法粘土:5


 あと、ジャイアントスネークを倒して鱗の守りを二つ手に入れた。

 通常効果として【防御+2】の首飾り。付属効果として、それぞれ【火耐性+5】、【Crt+1%】の効果があるので、【Crt+1%】の効果の鱗の守りを装備している。

 魔物のドロップを含め、3000イリス増えた。


「よし、あと少し!」

「聖者様、これも使ってくれ」

「それは?」

「ポットクールから差額としてもらった1万イリス、それと村の全財産を集めた1000イリスだ」

「いいのですか?」

「半分の5000イリスは最初から聖者様にお渡しするつもりだった。ゴブリンを退治してくれた礼と、アムの治療費としてな。アムから聞いてただろ?」

「そんなの聞いて……いや」


 そういえば、アムが言っていた。

 近々纏まったお金が入るから、それで治療代を払うって。

 これかっ!

 まさか、自分を売った金のことだなんて思ってもいなかった。

 知っていたからといって止められなかったのだが。


「あとは家にある金目のものを全部売り払う。だから、どうかアムを助けてやってくれ」


 村長が頭を下げ、それに倣うように村人たちも頭を下げた。

 俺はそれを聞き、言った。


「ありがとうございます。足りないの6400イリスだったから、もうこれでアムを買い戻せます」


 さっきまで所持金22600イリスだったが、その後、ポットクールに道具を買い取ってもらい、かなり所持金が増えた。

 火耐性の鱗の守りは500イリス。

 砂金は2000イリス、ポーション5本で6000イリス。

 さらにジャイアントスネークの鱗5匹分で2500イリス――これは村の人たちに鱗を剥がしてもらうことになるが、お金は先に貰えた。

 そのため、現在の所持金は33600イリスになっていた。

 そこに11000イリスが追加されれば、目標金額余裕で達成だ。


「本当か? 本当にもう40000イリス貯まったのか?」

「ええ、嘘を言いませんよ」


 俺がそう言うと、村長は気が抜けたのかその場に座り込み、他の村人たちも声を上げて喜びあった。

 全員でポットクールのいる場所に行く。

 そして、俺は40000イリスの入った袋をポットクールの前に置いた。


「約束通り40000イリス、耳を揃えて持ってきましたよ! アムを解放してやってください!」


 俺がそう言うと、ポットクールは袋の中身を確認せずにはっきりと言った。


「聖者様、アムルタートの解放はできません」

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