第320話 英霊の話を聞くのは団子を食べたあとで

 ブルグ聖国の転移門は大聖堂の前――バチカン市国のサン・ピエトロ広場のような場所のど真ん中に作られていた。

 確かに多くの人が行き交う場所としてこれほどうってつけの場所はないが、しかし国の中枢に作っていいのか?

 やろうと思えば他国から軍を送りたい放題だというのに。

 と思ったが、なんでも転移門は神の奇跡だから、国内で神に最も近いと言われるこの場所以外に作ることは考えられなかったという。

 もしも認められるのならばここではなく大聖堂の中に建ててほしかったそうだ。

 それを断ったポチ、ナイスだ。

 一度は大聖堂の中を見学するのもよさそうだが、この国に来るたびに大聖堂を通るのは面倒そうだ。

 嫌だよ、観光気分で遊びにいったら結婚式とか重大な式典とかやっている場面に出くわすなんて。

 大聖堂の中で結婚式ができるかどうかは知らないけれど。

 普段は観光客――というより信徒で賑わっているというこの広場も、現在は静まり返っている。

 転移門の設置から事件の解決まで関係者以外の立ち入りを禁止しているらしい。

 出迎えてくれたのはヨハルナ様と護衛の数人のみ。

 教皇は自ら十万の聖皇軍を率いて国の北側――死の大地南部の防備に当たっているため、大聖堂には不在。


「勇者様、よくいらっしゃいました。本来であれば歓迎のために式典を開いて勇者降臨の儀を開催したいのですが、そう言っている場合ではありませんね。案内します」


 ヨハルナ様はそう言って、大聖堂から見て左側の真っ白い建物に向かった。

 そこは美術館のような建物だった。


「ここは勇者博物館です。勇者様にまつわる様々な物が置かれています」

「へぇ……」

「たとえばこれは勇者様が懐に入れて温めていたお守りでして――」


 とガラスケースの中にはわらじが入っていた。

 懐にわらじを入れているって、もしかして豊臣秀吉の二番煎じでも狙っていたのだろうか?

 と、そこには昔の日本で使われていそうなお金や、こっちの世界のものもいろいろと飾られている。

 勇者が考えた団子の串ってなんだよ。


「この国、団子があるんですか?」

「はい。勇者様が考えた三色の団子はこの国の名物なんです。だから、この国の国旗もピンク色、白色、緑色の三色なんですよ」


 三色団子が元に国旗が作られたのか。


「三色団子の色は幸運を意味する紅白と成長を意味する緑の組み合わせを持っているそうですし、その由来を考えると国旗に選んでもおかしくはないですね」

「……っ!? そうなのですかっ!?」

「え? 知らなかったのですか?」

「はい……今の話を聞けてよかったです。この国の歴史が大きく変わりますよ」


 団子で作られた歴史が団子によって変わった瞬間だった。

 じゃあ、あの三色が春、夏、冬を示していて秋がないことから、秋ない=飽きない――ということも説明しようかと思ったけれど、言語が違う国でのギャグの説明程面倒なものはないから黙っておこう。


「あの、その説明のためにここに来たわけではありませんよね」

「もちろんです。ダンジョンはこの博物館の地下にあります」

「そうですか。だったらそこに――」

「いえ、その前にこちらに来てください」


 何か重要な理由があるのだろう。

 俺はヨハルナ様についていく。

 その間も先代の勇者について話を聞かされる。

 先代の勇者がどれだけの功績を残したのか。

 どんな凄い人だったのか。

 その話を聞くたびに、本当に凄い人だったんだなと思う。

 そして、俺は改めて勇者の凄さを知る。


「勇者様は女神より力を授かり、魔王を封印したと言われています。しかし、現在、その力の正体を知っているのは我々歴代の教皇とこの先にいる人だけです」

「この先にいる人? いや、それより勇者の力って?」

「英霊召喚――勇者は己の眷属を生み出す力です。女神から召喚魔法の存在を聞き、自分にもそのような力が欲しいと願ったそうです」

「英霊召喚――ってことはこの先にいるのは英霊ってことですか?」

「はい。ここ数百年は行方不明でしたが、先日ようやく帰ってこられたのです」


 勇者が生み出した英霊か。

 本当に豊臣秀吉が出てくるのではないかと思う。

 間違えても猿って言わないようにしないとな。

 そう思った。

 ヨハルナ様が重厚な扉を開き、中に案内する。

 そこにいたのは、猿ではなく、狐だった。

 順和室の畳の部屋。

 靴を履いたまま入るのは失礼な気がする。

 その部屋に座布団が三つ、そしてお茶と団子がそれぞれ三セット。

 そしてその座布団の一つに、和服を着た狐耳の女性が正座して座っていた。

 妖狐族の女性だ。

 ただし、身体は半透明で、まさに霊という感じがする。

 どこかアムに似ている気がする。

 だが、それ以上に俺は彼女を見た気がする。


「思い出した! 帝都の地下で見た幽霊」

『ええ。あの時は挨拶もせずに失礼しました』


 と彼女は頭を下げる。

 

『改めて、私の名前は妖狐族の玉藻たまもです』

「玉藻様……」


 玉藻前。

 平安時代に板と言われている妖狐か。


『まずは勇者様にお詫びとお礼を言わせてください』

「お詫びとお礼?」

『はい。あなたが召喚されるとき、召喚石を使って召喚場所をこの地ではなく死の大地に誘導したのは私です』

「そうだったんですか。まぁ、そのお陰で大切な人に出会えたから、いいですよ」

『そのことでお礼を言わせてください。私の娘を助けてくださりありがとうございます』

「娘? 娘……娘っ!? それって、もしかして――」

『はい。私がアムルタートのママです』


 と玉藻さんはニッコリと微笑み、団子を食べながら話をしようと言ってきた。

 その笑顔は笑ったときのアムによく似ていた。


――――――――――――――――――――――――――――

アムの母ちゃんの名前がこれまで全く出てこなかった辻褄がようやく……

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【300万PV突破】異世界召喚はゲームのあとで~過酷なファンタジー世界を俺だけ使えるゲームシステムで戦います~ 草徒ゼン @kusatozen

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