第92話 ポーションを作るのはポーションを棄てたあとで

 翌日は、錬金工房でひたすら作業することになった。

 昨日、ミスラが魔力の欠片を五回錬成した結果、錬金の技能が生えて魔力が上昇したので、ミスラもやる気を出した。

 幸い、錬金窯の予備がないかポチに尋ねたら用意してくれたので、二人で同時に作業ができる。

 アムは今日は休みとなった。

 考えてみれば、彼女が奴隷になってから、ほぼ毎日ダンジョンに行ったりダンジョンに行ったり別の町や村に行ったりダンジョンに行ったりで、休みを与えていないブラックな環境で働かせていた。

 今日くらいゆっくり休んで欲しいと思う。


 ミスラは悪魔と戦い終わるまで休みなしで頑張ってもらう。

 さて、俺は魔力ポーションを作るか。

 まずは魔力水。

 材料は水と魔力の欠片、あとレシピにはないが、液体なので薬瓶は必要と。

 錬金工房は自宅と同様、水道も通っているので、水道水を使う。

 簡単に作ることができた。

 魔力ポーションに必要なのは、魔力回復素材と魔力水。

 ここで出てくるのがマナグラスだ。

 俺がこの世界に来て最初に採取した草だ。


「マナグラスがこの世界にもあるだなんてな……」

「……トーカ様の世界にもあったの? マナグラス」

「いや、俺の世界にはなかったが、俺の知ってる別の世界にあったんだ」


 ……あれ?

 そういえば魔物と同じように植物も蒼剣と同じだな。

 野菜や果物の名前なんか日本にある果物と同じものも多いが。


「……どうしたの?」

「いや、マナグラスは俺の世界にはないんだが、みかんとか桃とかは俺の世界にもあったんだ。凄い偶然だなって思って」

「……偶然じゃないのかも」

「どういうことだ?」

「……召喚魔法。いまは異世界から召喚する魔法は勇者召喚しかない……でも、先史文明の時代は様々なものを召喚する魔法があった……もしかしたら、その時にトーカ様の世界から植物の種を召喚したのかも」


 そうだ、召喚魔法があった。

 だとしたら、日本にある野菜や果物がこの世界にあっても、一応の説明がつく。

 そして、召喚された植物が独自の進化を遂げ、魔物になった……なんてことがあるのかもしれない。


「でも、そんな凄い魔法技術があったのに、なんで滅んだんだ?」


 って聞いておいてなんだが、この質問ってお約束だよな。

 どうせ過ぎたる魔法の暴走で――とかそういうオチだろう。


「……詳しい経緯はわからない。だけど、突然現れた魔王によって滅ぼされたって言われてる」

「魔王に? あぁ、やっぱりこの世界にも魔王っているんだな」

「……トーカ様の世界にもいたの?」

「俺の知ってる世界に……な」


 日本に魔王はいないな。

 第六天魔王を名乗る人物はいたけれど、本能寺で自決したし。

 まぁ、勇者がいるんだから魔王もいるか。


「魔王と人間って戦ったりしてるのか?」

「……魔王はもう何百年も歴史に登場していない。でも、教会はまもなく魔王が復活すると言ってる」


 魔王の復活。

 でも、教会のトップが悪だった場合、魔王が復活するだなんて噂を広げて人々に不安を抱かせ、信者を集める狙いがあるのかもしれない。

 そもそも、勇者召喚なんていう異世界の人間に同意も無しに拉致してくるような組織、あまり信用できないんだよな。

 ただ、アイリス様を信仰している組織でもあるので、蔑ろにもできない。


 召喚されるとき、アイリス様がいなければ異世界人に勇者としての力が備わることがなかったので、異世界メリシアの人間も勇者召喚なんてしないんじゃないか? なんて考えたことがあったが、今の話を聞くと先史文明の時代には召喚魔法は一般的に使われていたらしい。

 もしも地球の人が召喚される際、勇者としての力が備わっていなければ、先史文明の人間の一部が召喚魔法で地球の人を大量に拉致し、奴隷のように扱っていたかもしれない。

 勇者としての強大な力があるからこそ、その召喚も慎重にしなければならなかったのだろう。

 そう考えると、アイリス様マジ感謝だ。


 神に感謝をささげ、マナグラスと魔力水を投入。

 グルグル混ぜて魔力ポーションが完成した。

 マナグラスは全部魔力ポーションに変えてしまおう。


「ミスラはポーション作りを頼む」

「……材料は?」

「キノコを使う。これも体力回復素材だ」


 森で採取したキノコを取り出す。

 一応、毒キノコが混じってないか鑑定で確かめてから渡した。


「……頑張る」

「おう、頑張ってくれ」


 と言って、作業続行。

 ただ、別に集中する必要はないので、雑談混じりになる。


「……トーカ様はアムのどこが好きなの?」

「ああ、全部好きだが、どこがって言われたら……どこだろ? 気付いたら好きになってた」


 アムを助け、彼女が奴隷になるって知って助けないといけないって思って頑張って、そして気付けばアムの主人になってて、俺は彼女を好きになっていた。

 後付けの理由ならいくらでも用意できるが、感情を理論で説明するのは無理なのだろう。


「(……それじゃ頑張りようがない……胸の大きいところって言われるよりはマシだけど)」

「聞こえないぞ、なんて言ったんだ?」

「……トーカ様、ボール退治に俊敏ブースト薬があればいいって言ってたけど、その材料の俊敏薬がない。どうする?」

「ああ、それについては考えがある。ステータスを上げる薬は魔核があればドリンクバーで作れるだろ? そして、俺たちは最近、魔核を手に入れた」

「……ホワイトモールの?」

「そう。ホワイトモールの魔核は俊敏薬の素材になる。俊敏薬一本で俊敏ブースト薬を五本作れる計算だ。ジャイアントゴーレムがいるダンジョンに行くって聞いてたから、そこにブラックモールがいることはだいたい目ぼしがついていたんだ」


 蒼剣でもジャイアントゴーレムがボスのダンジョンにブラックモールが現れたから。


「既にホワイトモールの魔核はミケに渡してあるから、今夜には俊敏薬ができる。本当はそのまま飲んで俊敏値の基礎値を上げたいんだが、六本はボール退治に使おうと思ってる」

「……残りは?」

「悪魔と戦う時に飲むよ」


 と言ってできたマナポーションを棚に入れる。

 そろそろ薬瓶がなくなってきたな。

 酒場にある酒瓶で代用できないだろうか?

 いや、スライム無限ループで手に入れたポーションの中身を棄てた方がいいな。


 棚の中からポーションを取り出して中身を棄てる。

 勿体ないが、蒼剣でも薬瓶の確保はスライム無限ループで手に入れたポーションの中身を棄てて作ることを推奨していた。


「……ポーションを棄ててポーションを作る」

「穴を掘って穴を埋めるような苦行だろ? でも、強くなるにはこの意味不明な作業を続ける必要がある」


 ゲーマーに作業の意味を考えさせてはいけない。

 それを考えてしまえば、ゲームをすること自体の意味まで問われてしまうからだ。

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