第256話 霜月を追うのは居場所がわかったあとで

 アイリス様は語った。

 神のシステムに介入できるのは同じ神だけ。

 霜月のシステムに介入したのは邪神の可能性が高い。

 スクルドの仕業か、それとも他の邪神かはわからないそうだ。


「でも、なんで霜月に介入を? 俺が邪魔だとかでしょうか?」


 核爆弾を使って世界を破壊――ってのも考えたけれど、いくら核爆弾の十倍以上といっても世界を破壊するだけの威力はない。

 考えられるとすれば、特定の町に混乱をもたらすか、アイリス様の加護を持つ俺の存在が邪魔なのか。


「わかりません。ですが、危険なことには違いありません。どうか霜月さんを緊急停止して拠点まで連れてきてくだされば、核燃料を魔力炉に変換して使用できるようにしますので。もちろん、拠点クエスト扱いにします。今回は私の責任でもありますので、奮発して報酬は9000円ですよ!」


 9000円はありがたいのだが、神様なんだから奮発して何十万とか何百万とかにしてほしい。ていうか、それが無理でもキリよく1万円とかにしてほしい。

 諭吉さんの顔がみたい……あ、もしかしたら日本では今頃渋沢栄一になっているのだろうか?

 いや、女神様にもまぁ事情があるのだろう。

 考えてみればDLCを導入するときにもかなり苦労していたようだし。


「わかりました。倒して連れてきます。といっても、あいつと次にいつ遭遇できるかわからないのが辛いですね」


 敵となった霜月は、通常のモンスターと一緒に現れるが、しかしどのタイミングで現れるかはランダムだ。

 一応、ボス戦やイベントバトルには登場しないが、それ以外だとどこでも現れる。

 そして、そのエンカウント率は決して高くない。

 忘れた頃に現れるっていうのが、俺の霜月に関する感想だ。

 気長に対処するしかないか。


「いえ、霜月さんの現在の居場所はわかっていますので、今すぐ対応していただけたらと思います」

「え? ランダムエンカウントじゃないんですか?」

「ゲームのシステムをそのまま再現しているといっても、そこまで忠実ではありませんよ。どこにいるかくらい特定できます。えっとですね、彼女は現在、先ほど遊佐紀様が潜っていたダンジョンの外にいるようですね」


 ダンジョンの外か。

 あのまま外に出たのかな?

 一体、霜月はそこで何の用事があったんだ?

 と考えて、嫌な予感がした。


「霜月さんはどうやら冒険者グループと一緒に行動をしているようです。人間と一緒に行動ですか。通常は他の魔物と一緒に現れるものですが、蒼剣でも盗賊などと一緒に現れることがありましたから、別に不思議ではありませんね」

「あの、アイリス様――その冒険者の姿ってわかります?」

「四人組のパーティですね。リーダーは黒い鎧を着ている人です」


 カイザーだ!

 霜月の奴、トウロニア帝国の皇帝と一緒に行動してやがる。

 カイザーは好奇心旺盛な奴だから、見るからに怪しい霜月ですら仲間にする可能性は高い。


「一緒にいるのはローブを着ている人と、小さい女の人と大きな男の人――あ、待ってください! これは姿を偽っていますね。一人は黒猫族で、一人は大鬼族です。ふふっ、女神の目は誤魔化せませんよ」


 いや、一人は黒豹族ですよ? 怒られますよ?

 でも、なんで霜月はカイザーの仲間になったんだ?

 あいつは盗賊などと違って敵ではない。

 俺と敵対しているわけではない。

 それに、あいつらはダンジョン探索が終われば帝国に戻ることだろう。

 そうすれば、俺と出会えなくなる。

 俺を殺したいという霜月の願いと矛盾する。

 

 もしかして、邪神と関係するのだろうか?

 だとしたら、神の管轄か。 

 俺はアイリス様に、カイザーが神をその身に宿そうとしていること。

 もしかしたら、その計画に霜月を利用している可能性があることなどを伝えた。

 

 霜月と戦って得られる経験値は惜しいが、あいつは強いからな。

 今の俺でも危ないかもしれない。

 ここはアイリス様に任せて――


「ええと、すみません、遊佐紀様。神の規約で、同じ神相手だったらなんとかできるかもしれないのですが、まだ神をその身に宿していないカイザーさん? をどうこうすることはできないのです。霜月さんも同様に」

「え?」

「カイザーさんが神をその身に宿したら対処できますが、そうなったら手遅れみたいな感じもしますし、やはりここは遊佐紀様に対処していただかないと」


 マジ……か。

 勇者になる覚悟もできたし、国を興すのも認めたが、まさか帝国に乗り込む必要が出て来るなんて。

 また厄介事の予感しかしないよ。

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