第53話 ミスラの授業は支援のあとで

 生まれて初めての二日酔いは、決して気分のいいものではなかった。

 昨日のミスラの歓迎会では酒を自重していた俺だったが、村長就任の発表をした後はそうはいかない。

 村人たちが俺を祝って酒を注ぎに来るのだ。

 酒はビール限定にしてもらったが、それでも飲酒経験の少ない俺にはきつかった。

 しかも、起きたところから、カンカンカンと何かを叩く音が響いているから猶更だ。

 二日酔いはヒールでは治らない。

 というのも、二日酔いの原因は肝臓でアルコールから分解されたアセトアルデヒドにより起こるものであり、つまりは毒によるダメージなのだ。

 なので、俺は棚の中に保存していた解毒ポーションを飲む。

 ふぅ、気分爽快、リフレッシュだ。


「おはようございます、ご主人様。改めまして、村長就任おめでとうございます」

「おはよう。そして、ありがとう。アムは朝早いんだな?」

「はい。日課のトレーニングをしていました。朝ごはんの準備をしますね」

「ありがとう」


 いつもはポチが朝ご飯を作ってくれるのだが、今日はポチは夜明け前から出掛けている。

 その証拠がさっきのカンカンカンという音だ。

 ポチの奴、早速家の横に新しい施設を作っている。

 拠点クエストを達成して拠点ポイントを得たから、作ってもらったんだ。

 転移門と櫓、どっちにしようか迷ったが、転移門にした。

 というのも、町から村に戻ってくるまで大変過ぎたのだ。

 行きは新しい場所に行く楽しみがあるのでまだいいのだが、帰りは同じ景色を反対方向から見るだけ。

 転移門があれば、帰還チケット一枚でどこからでも帰ることができる。

 帰還チケットはダンジョンの宝箱からも手に入るが、拠点に商会ができたらイリスを使って購入できる。

 とにかく、そういうわけでポチは忙しいい。

 それでも冷蔵庫に朝ごはんを作っていてくれる。

 今日の朝食はサンドイッチとスープだった。

 アムがスープを温めてくれている。


「ご主人様、申し訳ありませんが、ミスラを起こしてきてもらえませんか?」

「わかった」


 ミスラは現在、個室を使っている。

 一応、本を取り上げて睡眠をとらせたが、そろそろ起きてるだろうか?

 扉をノックするが反応がない。

 既視感がある。


「ミスラ、朝ご飯だぞ」


 そう言って返事をすると部屋の中から物音が聞こえ、


「……ごはん?」


 と寝ぐせ全開のミスラが扉を開けた。

 寝ぐせだけでなく、ほとんど下着状態だ。


「ああ、もうすぐ朝飯ができるから、まずは着替えてくれ」


 彼女はじっと自分の姿を見て、バタンと扉を閉めた。

 羞恥心はあるようだ。



「さて、今日の予定だが。ミスラ、お前は強くならないと死ぬって言ってたな? 強くなるってのは、魔力を上げるだけでいいのか?」

「……魔力が重要。でも他のステータスも上げないといけない」

「オッケー。じゃあ、ミスラはとりあえず転職からだな。魔術師になってもらおう」

「……転職?」

「その説明は後でする。次に、ここから南にあるエルマの村。俺たちの村と同じ国に所属しない開拓村だが、飢饉で大変なことになっているらしい。その村に支援物資を届ける。これは拠点クエストの強クエストだから絶対に受ける。朝から出発したら夜までには到着するだろう」

「……拠点クエストの強クエスト?」

「その説明も後でする。ついでに、その村の近くのダンジョンで周回する。このダンジョン用の弱クエストも受けてる」


 ミスラは弱クエストについては聞いてこなかった。

 学習しているな。


「ミスラ、そういうわけで本はお預けだ。でも、同時に魔力を上げる方法も伝授するからな」

「……わかった。トーカ様を信じる」

「よし。じゃあ行動開始」


 ミスラに転職の説明をした後、彼女には魔術師に転職してもらった。

 魔術師のレベルが上がれば、魔法を覚える他、魔力も上昇する。

 それに、杖術や魔法の技能レベルが上がりやすくなるからな。

 転職のときに、葡萄とゴールデンコーンを収穫していいか尋ねられたので、許可しておいた。

 ただし、葡萄もコーンも、畑に種を植えるように命令しておいた。

 言われなくてもミケならわかっているだろうけれど、万が一があるからな。


「副村長、じゃあ村のことを頼むな」


 元村長であり副村長のガモンに留守にすることを伝える。

 南のエルマの村に支援物資を届けると説明したら感謝された。

 なんでも、この村とエルマの村は昔から交流があるらしく、ガモンの嫁さんはエルマの村の出身だということがわかった。

 ただ、エルマの村が飢饉で大変な状況にある事は知らなかったらしい。

 ……副村長、結婚してたのか。


「よろしく頼む、聖者様」

「ああ、任せとけ」


 俺はそう言って当面の間の食糧と水、そして酒を収納し、南の村に向かった。

 移動中、ミスラは歩きながら本を読んでいる。

 俺が魔導書を「つかう」ことで、ミスラは既にファイアボール、サンダーボルト、ヒール、ライトアローの四種類の魔法を取得していた。

 それでも彼女が魔導書を読んでいるのは、魔導書をしっかりと読み解くことで、ゲームシステムでは得られない恩恵。

 たとえば、ワンランク上の魔法が使えないかを知るためだ。

 まだ成果は出ていないが、できることはやっておきたいだろうからな。


 そして、その日の夕方。

 そろそろ村に到着するというところで、地図に大きな反応があった。

 まず、村らしきものが地図に入った。

 そして、敵を示す赤いマークが村めがけて突き進んでいた。


「これは……村が狙われているっ!?」


 なんか既視感があるな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る