第68話 女神の召喚は手紙を送ったあとで

 蒼剣には手っ取り早く強くなる方法がいくつもあった。

 その中でも一番楽な方法を俺は取ろうとしている。

 これまではとある理由によりできなかったのだあが。


「返事が来た」


 ダンジョン周回を続けること十二回目。

 ようやくメールの返信が来た。

 しかし、返事は芳しくない。

 再度メールを送る。


「ご主人様、銀色宝箱を開けていいですか?」

「ああ……いや、待て! 次は俺の番だっただろ!」


 銀色宝箱を開ける。

 中に入っていたのは筒だった。


「お、ライトソードじゃん!」

「ライトソード? 剣なのですか?」

「ああ、剣だ」


 星で戦争する系の映画に出てくる武器だ。


「筒を持つと――《ブーン》と光剣が出てくるんだ。結構威力が《ブーン》ある」


 振るたびにブーンブーンと音が鳴るのが特徴。

 そういうものだと思うと何とも思わないが、慣れていないと思わず笑ってしまいそうになる。


「魔道具なのですね。使わせていただいてもよろしいですか?」

「ああ、使ってみてくれ。魔力やフォ〇スがなくても使えるから」


 アムがライトソードを使い振ってみる。


「軽いので剣を振っている気がしません《ブーン》ね。この威力はどのくらい《ブーン》なのでしょうか?」

「攻撃力はアムの鋼鉄の剣と同じくらいだぞ。まぁ、ネタ装備だからな。でも、光属性が付与されている。だから悪魔相手に有効に使えるはずだ」

「光属性の武器ですか。重宝しそうです」

「……トーカ様、茶色宝箱の回収終わった。脱出しよ」

「おお、そうだな」


 ダンジョンから脱出し、再度ダンジョンの中に入る。

 ボス部屋までは直進だ。

 ボスのビックリピーチの討伐時間は二分を切った。

 今回はライトセーバーによるアムの攻撃力アップの効果もあったのだろう。

 また銀色宝箱が出た。

 アムが開けると、中に道具枠拡張の巻物が入っていたので、アムの道具枠を9から10にする。


「……トーカ様、次――」

「焦る気持ちはわかるが、ミスラの魔力が三割切ってるぞ。一度休憩だ」

「……わかった」


 俺は保存食のスナックバーを取り出し、そのうち二本をアムとミスラに配った。


「今日はチョコレート味ですね。これも美味しいので大好きです」


 アムは嬉しそうにスナックバーを食べる。

 狐にチョコレートって確かダメだったような気がするが、狐ではなく妖狐族だから大丈夫なのだろう。

 ミスラは……


「そういえば、ミスラってハーフエルフだけどなんでも食べるよな? 肉や魚も平気なのか?」

「……ん? だいじょぶ。お母さんは野菜と果物しか食べなかったけど、ミスラはハーフエルフ。ピーマン以外は食べられる」


 それって、ミスラがピーマン嫌いってだけだろ。

 それともハーフエルフは全員ピーマンを食べられないのか?

 と着信音が。

 スナックバーを口に咥えたままメールを開く。


 んー、まだ言ってるな。

 でも、これは可能にしてもらわないと困る。

 メールを返信する。

 すると、突然ボス部屋の奥が光った。


「ご主人様、危険です! 下がってください」

「……新たなボス!?」

「いや、大丈夫だ。俺の知り合いだから」


 まさか、直接来るとは思わなかった。


 光の中から現れたのは美しい女性だった。


「遊佐紀様! 変なメール送らないでください」

「変なって、普通に問合せメールですよね?」

「私はカスタマーサポート係ではないのですよ」

「でも、カスタマーサポート設定になってましたよ」


 蒼剣の世界には、他のユーザーに手紙を送る機能がある。

 手紙を送るには、酒場のレベルを上げて冒険者ギルドを設置、その冒険者に依頼料を払う必要がある。

 ただし、冒険者ギルドがなくても、お金を払わなくても手紙を送ることができる相手がいる。

 それが、カスタマーサポートだ。

 主に、ゲームのバグの報告と要望を受け付けるサービスだ。

 俺はその機能を使って、彼女にメールを送っていた。


「ご主人様、こちらの方は?」

「……凄い力を感じる」

「ああ、紹介するよ。女神アイリス様だ」


 俺がそう言うと、「ああ、女神様」と二人が納得し、その直後にその場に跪いた。

 ジャパニーズドゲザの前段階って感じだ。

 まぁ、神様相手だとそうなるよな?


「それで、アイリス様。例の件、どうなりました?」

「どうもこうもありませんよ。DLCのダウンロードなんてそんな機能用意してませんから」

「蒼剣のシステム使えるようにしてくれるって言ったじゃないですか。それに召喚される前、電子マネー1万円分チャージしてきたんですよ? それを1円も使うことなく召喚された俺の身にもなってください。蒼剣と同じシステムが使えるなら、1万円分DLC買わせてください。それに無料DLCもあるでしょ? あ、早期購入特典と、密林購入特典のDLCも貰ってませんし」

「次から次に要望を出さないで下さい……え? 早期購入特典、密林購入特典? 無料DLC……あとなんでしたっけ?」

「1万円分のDLCです。あ、前作のゲームのセーブデータがあるので、前作購入特典も」

「また増やして……そんなの無理ですよ」

「俺、見てたんですよ? この世界に召喚される前、アイリス様のゲーム画面を覗いたら、キャラクター課金専用アバター使ってましたよね? 俺に何も言わずにこっそり課金してたでしょ。神様なのに課金厨ですか?」

「ギクっ……プー、プーーー」


 アイリス様は口笛で誤魔化そうとしているが、口笛が下手過ぎる。

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