第101話 反撃は干渉のあとで
「……トーカ様、アム、準備は整った。反撃開始」
ミスラがそう言った直後、俺とアムは動いた。
これまで負っていた傷がポーションであっという間に癒えた。
そして、先ほどのように悪魔に斬りかかる。
悪魔からは先ほどまでの余裕の笑みは消え失せていたが、それでも爪を伸ばして剣を受けようとするが、俺たちはその爪をいとも簡単に切り裂いた。
爪が再生するが、再生するより先にアムの剣が、俺の剣がその爪を斬っていき、斬られた爪が次々に地面に落ちては消えていく。
ついには再生が追い付かなくなり、アムの剣がジルクの背を捉えたかに思えたが、ジルクは先ほどと同様、空を飛ぼうとする。
しかし、片翼に大きな穴の開いた状態では上手に飛ぶことができないらしく、バランスを崩して倒れる。
『バカな、いったい何が起きている!?』
悪魔は苦悶に顔を歪めた。
そうだ、その顔を俺が見たかった。
俺とアムが同時に悪魔に迫り、今度はその二本の翼を切り落とし、
「ライトアロー!」
翼を斬りながら俺の放った魔法がジルクの左わき腹を貫いた。
心臓を狙ったはずなのにズラされたか。
悪魔の心臓が左胸にあるかはわからないが。
「それでも死なないんだな。さすが悪魔」
『何が起きている』
徐々にだが悪魔の翼の再生と脇腹の再生が始まりつつあった。
しかし、再生の速度は遅い。
「なにって、どっちだ? 俺たちが強くなったことか? それとも
俺はそう言って不敵な笑みを浮かべた。
そう、ジルクは現在、転移を使えない。
▼ ▽ ▼ ▽ ▼
話は数日前に遡る
俺はミスラに尋ねた。
「悪魔なんだが、時間通りに来るのか? 魔界からのゲートを通ってくるからどこにいても関係ないとか?」
いくらこっちが悪魔がやってくる時間に合わせて計画を練っても、悪魔が数日遅れや数週間遅れでやってきて、しかもミスラが一人の時を狙われたら困る。
それに、誰も巻き込まないためには戦いの時は村から離れる必要があった。
「……魔界があるのかは知らない。でも、悪魔は転移魔法を使ってくる。ミスラの首の契約が目印になっていて、どこにいてもわかるらしい。だから時間は守ると思う」
転移魔法――帰還チケットや転移門のようなものを道具無しで使えるのか。
俺たちもエスケプを使うが、特定の人がいる場所にどこからでも転移できるってのはもはや反則だろ。
「戦いのときに転移を使って攻撃を避けるのに使われるのも厄介だろうが、一番は転移を使って逃げられたら困るな」
「……対策を立ててる。このエスケプの魔導書。これを読み解けば、転移魔法の仕組みを理解でき、だからこそ転移への干渉ができる。悪魔の転移を封じることも理論上は可能。ただ、干渉に時間がかかる」
天才かよ。
転移封じの結界みたいなものか?
イベントがあるときはたいてい転移系の能力が使えなくなるんだが、ミスラの言っているように転移に干渉されていたのかもしれない。
「じゃあ戦う場所に事前に干渉しておけばいいんじゃないか? 転移禁止エリアを作る感じで」
「……悪魔の転移を見てから術式を組み立てるから事前に組み立てるのは無理」
「じゃあ、俺とアムはその間時間を稼げばいいわけか。本気で戦って逃げられたら困るから、僅かに押され気味ってのを装わないとな……ミスラは最初にライトアローを一発放って、その後悪魔が転移を使ったら解析と干渉を頼む」
「……ん、任せて」
▼ ▽ ▼ ▽ ▼
ってなことがあった。
「いやぁ、弱ったよ。思ったよりお前が
『我が弱いだと?』
「ああ、弱い。戦って見て確信したよ」
本気を出していないのはわかっていたし、遊ばれているのもわかっていたが、下手に再生するから逃げられないためにも押され気味のフリをするのが大変だった。
『くっ、くくく。侮るなよ、人間。我の本来の姿を見て同じことが――』
「ライトアロー」
話している最中なのにミスラが容赦なくクールタイム明けと同時に魔法を放つ。
俺のライトアローと違い、魔力の大きさに応じて威力を増す彼女の本気のライトアローは、ジルクの首から下全てを呑み込み、その生首だけがそこに残った。
「本気がなんだって? ていうか、生きてるのか?」
『ああ、生きている。我の負けのようだ』
卑怯だとかまだ本気を出していないとか言って文句を言うかと思ったが、思った以上にジルクは自分の負けを認めた。
あっけない。
「事前に最強だと聞かされていた強敵に挑むために念には念を入れてレベル上げした結果、全く苦戦することなく倒してしまうような物悲しさがあるが、やっぱり安全マージンは大事だってことだな」
『ミスラよ、受け取れ。貴様の父の魂だ』
ジルクはそう言うと、その生首の口の中から白い何かが出てきた。
それがミスラの父親の魂なのだろう。
その白い何かはミスラの周りを一周すると、徐々に消えていった。
「……お父さん、待たせてごめん。またね」
ミスラは目を閉じて、そう言った。
そして、ミスラはジルクの前に立つ。
杖を構えて。
悪魔とて不死ではない。
彼女が先ほどの魔法を使えば、ジルクは滅びるだろう。
『あの時の小娘が我を殺すとはな』
「……殺さない」
ミスラは言った。
『殺さないだと?』
「……ミスラの両親を殺したのはあなたじゃない。教団の連中。あなたは父の頼みを聞いて私を助けてくれた。恩人でもある。だから殺さない。ミスラはいい。アムはどうする?」
「いいえ、この悪魔は私の母の仇の魔物の一体ではありますが、悪いのは操っていた魔物使いの男の方です。まだ魔物使いの命令で動いているのでしたら話は別ですが、そうでないのならミスラに任せます」
「……じゃあ、あなたがミスラたちの命を狙わないなら見逃してあげる」
すると、ジルクは笑った。
まるで最大の喜劇を見たかのように愉快そうに笑った。
そして、ジルクは俺を見て言った。
このタイミングで何故俺を見るんだ?
『思い出した。貴様、ワノクニの人間だな』
「――っ!?」
ワノクニ、それってもしかして日本のことか?
名前からして絶対にそうだろう。
『三百年程前か。我と戦った強き者の空気に似ておる。勇者と呼ばれた人間だ。あやつも不思議な男だった。本人の実力も一流であるが、なにより周囲の人間を強くする不思議な力を持っていた』
三百年前ってことは江戸時代?
いや、この世界と日本の時間の流れが違うって言っていたからもっと昔のことか。
とにかく、過去に召喚された勇者も日本人だったのか。
『だとしたら我がここにいた理由は……全ては手の平で踊っていたということか』
「いったい何を言ってるんだ?」
『いいだろう。ハーフエルフの娘――いや、ミスラよ。我はその契約――我が真名バルクニルの名の許に交わそう。我は其方たちを傷つけることはしないと誓おう』
ジルクは――いや、バルクニルはは笑って、そして告げた。
そして、消えた。
ミスラが転移魔法への干渉を止めたのだろう。
『我の力が必要なときは呼ぶといい。いつでも力を貸そう』
バルクニルの声が響く。
そう言ってオカリナのような形の黒い笛が地面に落ちた。恐らくバルクニルを呼ぶための笛が。
勇者やアムの母親の仇について知りたいことがあったのだが、もう地図を確認してもバルクニルはどこにもいなかった。
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