私の仕事を紹介します4




結局敷地を出た所に店長の車があって、私はそれに飛び乗った。店長はすぐに車を発車させる。

「はふぅぅうう。今回ばかりはさすがに終わったと思いましたよ」

「あっはっは、大丈夫大丈夫。僕が大事なアルバイトを見捨てるわけないじゃないか〜」

「大事だと思ってるならこんな仕事押し付けないでくださいよ……」

フードを脱ぎ、私はリュックの中に指輪が入っていることを確認した。箱を開けてもう一度中を見てみる。間違いない、写真と同じ、依頼人の指輪だ。明日の昼これを依頼人に渡してこの仕事は終了だ。

夜中の道路には店長の黒い車しかない。空には月が出ていて、ぼんやりと街を照らしていた。とても静かだ。

「ふわぁぁあ。早く帰って寝たいー」

「ちゃんと報告書書いてから帰ってね」

助手席で大きなあくびをひとつすると、店長が念を押すようにそう言った。そんなの言われなくてもわかってますよ、もう。

「怪盗アザレアのすごさが身に沁みてわかりましたよ。こんなのはもう二度とごめんです」

「でもまさか一人で逃げ切れるとは思わなかったよ。雅美ちゃん成長したね」

「逃げ切れなかったらどうしてたんですか!」

「ちゃんと警備員を巻く策を用意してあったって」

ここで私はもう一度あくびをした。まぁ、その言葉信じてやることにするか。そもそもこの店長が失敗するとは思えないしね。

「店長家まで送ってくださいよー」

「もちろん。だからここで寝ないでね」

と言われたものの、私はもう半分眠っているようなものだった。時間帯のせいか無事屋敷を出られた安心感からか、ものすごく眠い。頭がボーッとする。

店に到着すると、いつも店先に置いてある瀬川君の自転車がなかった。いつも私より遅くまで仕事をしている瀬川君だが、さすがにこの時間まではいないらしい。彼は高校生だから明日も学校があるのだろう。

私もこんな時間に帰ったらまたお母さんに怒られてしまうだろう。一応友達とカラオケに行くと言ってあるが、お母さんは信じてくれているだろうか。お母さんは私がこの怪しい店で働くことを快く思っていないから。

いっそのこと友人のにっしーの家にでも泊まろうか……確か彼女は一人暮らしだったはずだ。そう考えて、ぶんぶんと頭を振った。さすがにそれは迷惑だろう。私はもう一度あくびをしながら店内に入った。

帰ってきて早々だが、報告書を書かなければならない。ただでさえ疲れていて眠いのに面倒臭いが、明日に残しておくのはもっと面倒臭いだろう。それに明日だと細部を忘れてしまいそうだ。今だって必死だったからあんまりよく覚えてないのに。

店の奥にある自分専用の部屋に入る。この店には従業員それぞれの専用の部屋がある。まぁ、広くはないが、私には十分な広さだ。机と、全然使わない備え付けのパソコンが置いてある程度だ。

一度瀬川君の部屋を覗いたことがあるが、パソコンやら大量の資料やらで足の踏み場もないくらいごちゃごちゃしていて汚かった。ものすごく掃除してやりたい。

反対に私の部屋には特に何もない。第一普段店のカウンターにいる私は、この部屋をほとんど使わないのだ。今日のような仕事をするときに黒い服に着替える更衣室代わりといったところか。もったいない使い方だが、学校から直接バイトに来る私には荷物置き場として必要不可欠な部屋だ。

報告書を書くためにパソコンを立ち上げる。このパソコンは報告書を書くときくらいにしか使わないから、気を抜くとキーボードにすぐ埃がたまる。私は埃とりでキーボードの埃を取り除きながらパソコンが起動するのを待った。

パソコンが起動すると報告書用紙と書かれたファイルを開き、出てきた画面の欄に求められている説明を書き込んでいく。書くことを一から自分で考えなくてもいいから、この報告書の様式は楽だよなぁ、と思う。

椅子に座ってうつらうつらしながらピコピコとキーボードを打つ。うーん、眠くてうまく文章が纏まらない。もうテキトーでいいや、と開き直りながら今日あったことをずらずらと書き連ねる。支離滅裂な文章でも店長ならわかってくれるでしょ。私は書き上がった報告書を、読み直しもせずに紙に印刷する。

報告書と荷物を持って部屋を出る。今日もバイトの前までは学校があったので、荷物はけっこういっぱいだ。特に授業で作った立体の作品が邪魔で仕方がない。

静かだとギシギシと軋む音がよく響く廊下を歩きながら考える。そういえばあの警備員さん大丈夫かな。思いきり頭を殴ってしまったが、血とか出てなかったし、たいしたケガじゃないと思うんだけど。

店のソファーに座っている店長に出来立てほやほやの報告書を提出する。店長は報告書にざっと目を通すと少し苦笑いを浮かべた。そんなに酷い文章だっただろうか。

それでも店長は「書き直せ」とは言わなくて、私を家まで送ってくれた。助手席で揺られながら、そういえば店長っていつ寝てるんだろうと考えたが、毎日元気に動いてるしどうでもいいかと自己完結した。とりあえず私は早く暖かい布団で寝たいのだ。

家の前で店長にお礼と若干の愚痴を言い、これで私の一日は終了だ。リビングに入って時計を確認すると時刻は朝の五時だった。明日も朝から学校がある私にとっては辛いところだ。

それでも一時間でも寝ようと、お風呂を済まして布団に入る。かくなる上は授業中に寝るしかない。布団に入って目を閉じると、私は一瞬で眠りについた。




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