一度きりの今日を楽しんで4




「いやー、今日は楽しかったね。雅美ちゃん」

ネズミィーランドから駅へ向かう帰り道。店長は両手にはめたミッキィーとミニィーのパペットの口をパクパクしながらそう言った。

「楽しんでたのは店長だけですよ」

なんだか今日はものすごく疲れた。ミッキィーとミニィーをパクパクさせている店長を見て、自分は何もお土産を買っていないな、と今更後悔した。革口さんの監視に忙しくて、お土産を選んでいる暇はほとんどなかったのだ。

「そういえば、雅美ちゃん全然お土産買ってなかったね」

「だって時間なかったんですもん」

なにせ店長が遊んでる間私が一人で革口さんの見張りをしていましたからね。そんな余裕はありませんでしたよ。

それについ数ヵ月前、友達と遊びにきたばかりだったし、お土産が買えなくてもまぁ諦めはついていた。そりゃいつでも来れるって場所ではないけど、来ようと思えば何度だって来れるはずだ。それに、今日はもともと遊びで来たわけではない。

「雅美ちゃん」

「?」

呼ばれて振り向くと、店長が私の方に右腕を差し出していた。

「しょうがないから雅美ちゃんにはこれあげるよ」

腕の先についているミニィーちゃんをくれるということだろうか。私の目の前では、店長の手によってミニィーちゃんが口をパクパクと動かしている。

「ど、どうも」

私は店長の右手からミニィーちゃんを受け取って腕にはめてみた。うん、さすがに世界的人気キャラクターだ。普通にかわいい。かわいいけど……これ何に使えばいいんだろう。

帰路につく革口カップルの後ろを、黒いネズミのパペットをつけて歩く二人組。すっかり暗くなった空にはちらほらと星が輝いている。

ああ、今日はいろいろあって疲れたな―……。

くたくたになった私の右手では、ミニィーちゃんがニッコリと笑っていた。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る