てんやわんやで大団円
四月十七日、木曜日。時刻は午前九時半。場所は南鳥市のスイセンというアパートの二〇二号室。
「はぁぁあ」
私、荒木雅美は思わずため息のような声を出してしまった。
「はぁ……。暇すぎる……」
誰に言うでもなく呟く。独り言を言ってしまうくらい、私は今本当に本当に暇だった。でもこれももう少しの我慢だ。あと三十分したら店長が来てくれる予定になっている。そしたら、この恐ろしく暇な時間の渦から抜け出すことが出来るのだ。
私は「あと三十分」と自分に言い聞かせて気合いを入れ直した。
現在私は、革口さんが住んでいるアパートの、彼の隣の部屋にいる。革口さんはごくごく普通の大学生だ。そして、普通のアパートに普通に住んでいて、普通に一人暮らしをしている。
革口さんの毎日を調査する一週間の間、私達朱雀店はこの隣の空き部屋を借りているのだ。依頼人の鈴木さんは夜も一晩中見張っていてくれと頼んできた。なら、もう隣に部屋を借りるしかない。
今日は革口さんの尾行最終日。正直、朝昼だけでなく夜中まで見張っているのはものすごく大変だった。夜中はもちろん革口さんは寝ているし、なのに私は起きて見張っていなければならないし。
今日私が革口さんを見張る時間は、朝の五時から十時までだ。現在時刻は九時四十五分。あと十五分の我慢だ。
ずっとフローリングに座っていた私はさすがに腰とお尻が痛くなってきたので、近くにあったクッションを引き寄せてうつぶせに寝転がった。すぐに撤退できるようになるべく物は持ち込まない決まりになっていたのに、誰だこんなクッションを持ち込んだのは。まぁたぶん店長だと思うけど。
私はその場に寝転がったまま、隣の部屋に耳を澄ましてみた。相変わらず物音ひとつしない。いや、薄い壁の向こう側からは、かすかにイビキ声が聞こえる。
革口さんは今日学校もバイトも無いらしく、ずっとダラダラと眠っているのだ。何回かトイレに行ったり水を飲んだりと立ち上がった気配もあったが、すぐに布団に戻ってまた眠っているらしい。ちなみに現在は四度寝目だ。昨日夜更かししてゲームしていたからって、いくらなんでも寝過ぎだろう。
革口さんに動きがないせいで、私も暇でしょうがない。せめて革口さんがテレビでもつけてくれたら、ラジオ感覚で私も楽しめるのに。この部屋は未だ空き部屋という設定なので、こちとらラジオも持ち込めないし、部屋を動き回ることもできない。
こんなじっとしているだけの仕事は瀬川君向けだな……。などとぼんやり考えながら、ケータイを開いて時間を確認する。九時五十分。あと十分。
「はぁ……」
私はまたため息をついた。あと十分、私も寝ちゃってもいいかな?
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