青春は駆け足で3




「わっ、鳥山さんが来てくれるなんて思わなかったな!」

「えっ……と……。誰でしたっけ」

そしてなぜ自分は手を握られているんだろう。鳥山麗雷は心の中で呟いた。

「あっ、そうだよね、鳥山さんはアタシの事なんて覚えてないよねっ。はじめまして!アタシ、立花流雨(たちばなるう)。鳥山さんの大ファンなんだ!」

「ファン……ですか……」

若干引き気味の麗雷。しかし流雨は、それには気づかずにまくし立てた。

「そう!ファンなんです!一年生で初めて見た時からかわいいなーって思ってて!頭も良いし、運動もできるし、本当に憧れる!アタシ、今まで一回も同じクラスになれなかったのが残念でならないの……!選択科目が違うから仕方のないことなのかもしれないけど……。でも今日まさかアタシのクラスに来てくれて……きゃー、どうしよう!鳥山さんのネイルは絶対アタシがやりますねっ!あ!そうだ、見てください!アタシ会員証のナンバー三番なんですよっ!鳥山さんのファンクラ………」

「「ああぁぁあああっ!」」

「どうしたのよ、二人とも」

突然大声を出した結歌と凪砂にびっくりする麗雷。二人は麗雷の眼前から流雨を掻っ攫って、教室の端へ連れてきた。

「ちょっと!ファンクラブのこと本人は知らないんだからっ!」

「そんなこと言ったらあいつ絶対怒るぞ」

「そ、そっか、アタシったらつい……興奮しちゃって」

教室の隅っこでこそこそ話す三人。麗雷が訝しげに眺めていると、璃夏が近寄ってきた。

「あはは~っ、立花さんってすごいんだねぇ。マジドン引き」

「キモっ」と吐き捨てる璃夏。麗雷はそんな璃夏にドン引きだ。

しかし璃夏は、この世で一番かわいいのは自分だと思っているので、ちやほやされている麗雷の存在が許せないのだ。今も、教室の隅にいる流雨を侮蔑の眼差しで見ている。

話がついたらしく、しばらくして三人が戻ってきた。流雨は眼鏡のフレームをクイッと上げてから麗雷を見据えた。そして思いきり頭を下げる。

「ごめんなさい鳥山さん……っ!アタシ、また我を忘れちゃってたみたいで……」

「いや、私は大丈夫だけど」

麗雷はチラ、と視線を流雨の後ろに移し、結歌と凪砂に助けを求める。その視線の意味を理解した二人は、しかし苦笑するだけだった。

「でも鳥山さんを崇拝する気持ちだけは本当だからっ!」

「す、崇拝っ!?あんた、私を何だと思ってるのよっ!?」

「神です!」

「即答するなッ!」

麗雷は恥ずかしさと怒りで顔を真っ赤にしながら、全力で叫んだ。



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