ついに決行!偶然を装ってバッタリ大作戦!




十一月十五日、日曜日。午前九時四十分。私たち七人は大阪駅の一角で自己紹介をしていた。

「はじめまして、玄武店の田村椏月です!まだバイト一年目のへっぽこです〜」

「でも椏月さんは物覚えもいいですし、すごく仕事ができるんですのよ」

「花音さんにそう言ってもらえるなんて嬉しいな〜」

花音ちゃんの言葉に椏月ちゃんはへらっと笑って頭をかいた。この二人は仕事中でも雑談をする程度には仲がいいようだ。まぁ、それでなくとも玄武店は雰囲気がいいしね。

「私は兵藤唯我といいます。青龍店の鳩をしているので、皆さんにはちょっとだけ会ったことあると思います」

唯我さんはまず自分の自己紹介をした後に、手の先で隣の独尊くんを指した。

「こっちは弟の独尊です。どー君って呼んであげてください」

「いや、さすがにそれは……」

悪意のない姉の紹介に、独尊君はもの申そうとした口をつぐむ。唯我さんに強く言えないのは相変わらずのようだ。

「前から思ってたけど、鳩ってことは二人とも社員なの?」

二人の自己紹介にメンバー最年長の藍本さんがツッコミを入れる。それに答えたのは唯我さんだった。

「いいえ〜、私達はアルバイトです。他のお店の鳩は社員さんなんですか?」

「うちは社員だけど……」

「玄武店も社員ですわ。 そもそも、そういう決まった役割がある仕事は社員が担う事が多いですわね。責任もありますし」

花音ちゃんの説明に一同はなるほどと頷いた。

「俺らが入って二ヶ月目くらいの時に店長が適当に選んだんだよ。前の鳩が辞めたからって」

「そういえば、前の鳩の飯島さんは社員さんだったね」

独尊君のボソッとした言葉に、唯我さんが反応する。今度は藍本さんがこちらに振ってきた。

「そういや朱雀店は鳩いないよな」

「うちは従業員三人しかいませんから」

「でも強いて言えば瀬川君が朱雀店の鳩なんじゃね?」

私は藍本さんの言葉に「そうかも」と肯定したが、唯我さんがほわほわ〜っと反対意見を言った。

「でもうちには店長さんが来る時たまにあるよ?」

唯我さんの一言に私と独尊君と花音ちゃんは三者三様の反応を示した。まず私が店長というキーワードにパッと花音ちゃんの方を見やり、独尊君が嫌いな人の名前に眉をひそめ、花音ちゃんが好きな人の名前にぱあっと顔を輝かせた。

「蓮太郎さんは青龍店には行くんですの?玄武店には全然いらっしゃらないのに!」

「え?玄武店にも結構来てるみたいですよ。昼に来るんであたし達は知らないだけかもしれませんけど」

そういった椏月ちゃんに花音ちゃんが絶望しきった顔を向けた。その表情に椏月ちゃんは「?」を浮かべるが、ハッと何かに気づくと顔を背けた。

「まぁ鳩の話は置いといて、自己紹介の続きをしようぜ」

この場にいない人の話題が続くのは今日の集まりの理由にはそぐわないと思ったのか、藍本さんが話を本筋に戻した。それに彼は花音ちゃんが店長を好きなことをおそらく知っているだろうし、店長の話は避けたかったのだろう。今日は独尊君を応援しに来ている私としてもそれはありがたい。

「俺は白虎店の藍本楓です。この中では一番年上だろうけど、俺に頼るのはやめてくれな」

藍本さんは自己紹介が終わると私に視線を向けた。まだ自己紹介が終わっていないのは朱雀店だけだ。私はちょっと息を吸うと口を開いた。

「私は朱雀店の荒木雅美です」

隣の瀬川君に視線で促すと、彼は「瀬川です」とだけボソッと言った。私は再びメンバーに視線を戻す。

「今日は集まってくれてありがとうございます。けっこう直前のお誘いですみませんでした」

私が少し申し訳なさそうにそう言うと、花音ちゃんと唯我さんが「いえいえ」と微笑んだ。藍本さんがポケットから取り出したスマホで時刻を確認する。

「そろそろ電車来そうだな。ホームに移動しようぜ」

藍本さんを先頭に私たちはぞろぞろとホームへ降りた。私が幹事なのになんだかんだ藍本さんに仕切らせてしまっている。だが藍本さんも元来こういう性格なのだろう。自分から仕切るとは言わないが、誰も仕切らない場合は自然と前に立てる人なのだ。




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