ついに決行!偶然を装ってバッタリ大作戦!2
大きな駅だけあって、ホームは人でごった返していた。しかも今日は日曜日だ。この駅はネズミィーランドへ行くのにもよく使われるし、若者や家族連れも多くいた。もし電車で座れたなら花音ちゃんを独尊君の隣の席へ促そうと思っていたのだが、どうやら降りる駅まで座れそうにない。
やって来た電車に乗り込み、私は独尊君に目を向けた。集合した時からずっと唯我さんの隣にいる。私はこっそり溜息をついた。独尊君のためにこんな集まりを計画してあげているのに、もっとガッと行ってくれないと。
おそらく唯我さんも自然と独尊君の側を離れられないのだろう。わざとやっているのでなく、この二人は一緒にいるのが当たり前なのだ。だがまぁ独尊君を観察していると、彼はチラチラと花音ちゃんの方を見ているので今日の目的は忘れていないと見える。当の花音ちゃんは椏月ちゃんと楽しそうにお喋りをしているが。
乗り換えた電車は先ほどより遥かに空いているが、全員が座れるほどの席が空いていなかったので結局みんな立っていた。だんだんお喋りに花が咲く中、私は藍本さんに声をかけた。他の店から二人ずつ参加しているが、白虎店からは藍本さん一人しか参加していないのだ。他の人達はそれぞれの店でなんとなくペアになっているが、藍本さんは居づらいだろう。
「藍本さん、私ネズミィーランドの本買ってきたんですけど見ます?」
「お、気が利くじゃん荒木さん」
スマホをいじっていた藍本さんは顔を上げると雑誌を受け取った。いざとなった時の話題作りのために、数日前本屋に買っておいたのだ。アトラクションやレストランの料理などが紹介されている。
「荒木さんはどれに乗りたいの?」
「私はとりあえずお化け屋敷ですかね。このホラーマンションってやつです」
「へー、荒木さんホラー系得意なの?」
「得意ってわけじゃないんですが、友達がおすすめって言ってたんで」
正直に言うと、ホラーは苦手な方である。だが男女を急接近させるならやはりお化け屋敷かなと思ってのチョイスだ。何度も言うが、私は今日独尊君を応援するために来ている。 友達のおすすめというのも嘘っぱちだ。あとは観覧車などもいいと思ったが、上手く独尊君と花音ちゃんを二人きりにするのは難しいだろう。
「じゃあこのお化け屋敷は決定っつーことで」
「藍本さんはどこか行きたいとこありますか?」
「うーん、俺はジェットコースターかなぁ」
「ネズミィーのジェットコースター人気ですもんね。エレメントスパーク」
「ああ、すっごい速いらしいな」
私は振り返って、すぐ後ろでぼーっと突っ立っていた瀬川君に声をかけた。
「瀬川君は何か乗りたいのある?」
瀬川君はパチリと一回瞬きをすると、「とくに無い」と答えた。ありゃりゃ、私には瀬川君とちゃんと仲良くなるという目標もあるのだが、こちらの方はダメそうかもしれない。
現在は各々の店だけで固まってしまっている。私はその固まりを打ち消すために、一番近くにいた青龍店の二人に声をかけた。
「独尊君と唯我さんは何か乗りたいものある?」
私は藍本さんから返してもらった雑誌を二人に手渡す。二人は今までしていた会話をやめてそれを受け取った。
「どー君、何乗りたい?」
「俺は別に……。姉ちゃんは?」
「私は観覧車がいいなぁ」
ペラペラとページをめくる兵藤姉弟。私はその間に玄武店の二人を手招きした。
「私ネズミィーの本買ってきたんだけどさ、今のうちに何乗るか決めとこうよ」
私がそう言うと、二人共こちらへ近づいてきて雑誌を覗き込んだ。残念ながら花音ちゃんは唯我さんの側から覗き込んだので、独尊君の隣にはならなかった。恋のキューピットってなかなか難しいのね。
「あたし、ジェットコースターがいいなぁ。花音さんは?」
「私はそうですわね……ネズミィームービーマジックが見たいですわ」
なるほど、花音ちゃんはムービーアトラクションがいいのか。これはネズミィーキャラクターたちが3Dで動くムービーだ。さらに座席が動いたり香りが漂ってきたりと臨場感がある。
ふと見ると独尊君が花音ちゃんの顔をガン見していた。馬鹿か、それじゃあ好きなのがバレバレだ。
「ムービーマジック良さそうだね。じゃあとりあえずジェットコースターとお化け屋敷とムーミンマジックにしようよ。三つとも違う雰囲気で釣り合いもいい感じじゃない?」
私の言葉にメンバーから賛成の声が上がった。この時ちょうど駅に到着して、私たちは電車を降りることにした。ホームを歩いている最中、私は唯我さんに声をかける。「時間があったら観覧車も乗ろう。私も乗りたいと思ってたんだ」とフォローも忘れない。
私は周りの状況を見て、このまま唯我さんと会話をすることに決めた。椏月ちゃんが藍本さんとジェットコースターの話をしているので、花音ちゃんが一人なのだ。私は独尊君を花音ちゃんの方へ押すようにして、唯我さんの隣に割り込んだ。
「唯我さんはネズミィーランドって行ったことあります?」
「中学の時校外学習で一回行ったきりです。京都のお寺と大阪のネズミィーランドに」
「私の修学旅行も似たようなものでした。高校の時は沖縄だったんですけど」
私は取り留めのない話をして唯我さんの隣を占領した。斜め前では独尊君が押し出されたことに気付いた花音ちゃんが彼に話しかけたところだった。よしよし、上手くいったぞ。私は唯我さんと会話をしながら二人の会話に耳を傾けた。
「兵藤さんは青龍店なのですわよね。玄武店は青龍店のことはあまり好いていないのですが、お二人のことは感じのいい方だとよく話しているのですわよ」
「あ、ありがとうございます、あの、それって店長のあれですよね」
「そうですわね。あの方を支持している方々が店の雰囲気を悪くしているのだと思いますわ。昔はもっと、純粋な対抗心がありましたのに」
「なんかすみません……」
「何故あなたが謝るんですの。あなた方のようなまともな考えの方が増えてくれればいいのですけれど」
私は花音ちゃんと独尊君の会話をもやもやしながら聞いていた。何故こんな時に限ってそんなへっぴり腰の敬語なんだ。私には思い切りタメ口で偉そうなのに。
おそらくだが、花音ちゃんは頼りになる男性がタイプなのではないだろうか。今の独尊君のように緊張して下手に出ていたら、たぶん花音ちゃんの恋愛対象にはなれない。もっと堂々としないと。早く注意してあげないと、花音ちゃんの独尊君に対するイメージが悪いものになってしまう。
「鳩の仕事は大変ですの?」
「い、いえ、仕事がある日はたまにしかないので……。普段は雑用係だし……」
「うちの鳩もそんな感じですわ。この時世では郵便制度も発達しておりますしね。自分達で運ばなければならない荷物なんてそうありませんわ」
「そうですよね」
「うちの鳩の方も、普段は店の掃除なんかをしてますの。外の花に水をやったり」
「俺もたいてい掃除で一日終わります」
「どこの店も同じようなものなのですわね」
二人の会話を聞き続けているとさらにもやもやが募る。何故か花音ちゃんが会話をリードしている。話題を出すのは花音ちゃんばかり。独尊君は相槌を打つだけ。相手はほとんど初対面なのに、そんなのじゃ女性の心は掴めないぞ、独尊君!とくに意中の相手がいる女性の心は!
ここで、おろそかになっていた唯我さんとの会話に、私は意識を引き戻された。
「どー君が私以外の人とお喋りしてるなんて、なんか新鮮だよ」
唯我さんに目を向けると、彼女はまるで母親のような表情で独尊君を見ていた。たった一つ年上なだけでこんな表情ができるとは、一体独尊君はどれだけ唯我さんにべったりだったのだろう。おそらく私が想像している以上なのだろう。独尊君に姉離れの時が近づいていればいい。
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