心の奥が気持ち悪い4
「雅美ちゃん、何か食べる?」
「次の仕事があるから~」とさっさと帰る深夜さんを見送って五分後、店長は唐突にそう言った。壁の時計を見上げると二時五分前だった。
「あ、はい」
私と瀬川君は、学校がない日は基本的に朝からバイトに来る。そういう時お昼ご飯を持って来たりはしていない。
私が朝から来ればずっと私が店番をしているので、店長がふらふら外出をすることができるのだ。たいていはその時何か買ってきてくれる。私はいつもそれをお昼ご飯にしているのだが、おそらく瀬川君もそれを自分の部屋で食べているのだろう。
もうひとつのパターンとして、朝から出掛けなかった店長が作るというパターンもある。これは従業員数が多い他店舗ではできない方法だろう。店員が三人しかいない朱雀店ならではだ。
「リッ君に何食べたいか聞いてきて」
「自分で行ってくださいよ」
「え、面倒臭いじゃん」
店長が面倒臭いなら私も面倒臭いんですけど。私はその愚痴の代わりにため息を吐いて、仕方なくソファーから立ち上がった。
「ついでに冷蔵庫の中見てきて」
「はーい」
私は背中で間延びした返事をし、店の裏にある瀬川君の部屋へ向かった。
私達朱雀店の面々のお昼はいつもこんな時間だ。私はいつも十時半くらいにここに来ている。学校のない日は朝ごはんが遅いから、お昼はこれくらいでちょうどいい。瀬川君は休日も私より早く来ているが、おそらく十時くらいだろう。それなら朝食も私と同じくらいの時間だろうし、二時の昼食に文句はないだろう。
瀬川君の部屋のドアを軽く叩く。返事は返ってこないが、少し待つとすぐにドアが開いた。いつものことだ。
「どうしたの?」
本日二度目の訪問。私は普段瀬川君の部屋に行くことが少ないので、こんな日は珍しい。
「店長がお昼作るから何がいいだって」
「何でもいいけど……」
「私も何でもいいんだけど……」
しばらく無言状態が続く。「何でもいい」って言葉は人と話すときに使っちゃダメだな。
「……とりあえず何でもいいって言っとく」
「うん」
わざわざ部屋まで聞きに来た意味はあるのだろうか。私が部屋の前から離れると、すぐに背後でドアの閉まる音がした。
店に戻る前に、道中にある台所に寄る。小さな台所の一番奥にある冷蔵庫を開け、中身を確認する。普通に普通のものが入っていた。卵とか、ハムとか、あと野菜が少々。
店に戻ると、店長は先程と同じ体勢でテレビを見ていた。
「店長、瀬川君何でもいいって言ってましたよ。そして私も何でもいいです」
足を止めずにそう報告し、カウンターへ向かう。深夜さんが来たときのファイルが確か整理途中だったはずだ。
「何でもいいかぁ。じゃあオムライスにする?」
そう言う店長の方を見ると、彼の視線はテレビから流れる料理番組に向いていた。エプロンをつけたおばさんがペラペラと説明をしながらオムライスを作ってる。なんて安直な。
「私はそれでいいです。卵いっぱいありましたよ」
「じゃあそれでいっか」
店長は面倒臭そうに立ち上がると、店の裏に姿を消した。
私はご飯が出来るまでファイル整理の続きをすることにする。深夜さんが突然トランプに誘うので、どこまでやったか忘れてしまった。
時計を見ると二時ちょうど。だんだんお腹も減ってきた。オムライスが楽しみだ。
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