形骸之内





「おはようございまーす」

八月十五日、金曜日。今日は夏休みにも関わらず学校があり、昼過ぎからのバイトだった。駅に着いたときは二時半だったので、今は三時前くらいだろうか。

私がバイトを休むのは、何か用事があるときか店長が休めと言ったときだけだ。たぶんバイトに行きたくなければ理由なんてなくても休んでいいのだろうが、私は用事もなく休むことは全くない。毎日ここへ来るのが当たり前になっているのだ。まぁ、入社時に毎日入れますって言っちゃったしね。

だが私なんて全然休んでいる方だ。瀬川君なんてほとんど毎日バイトへ来ているんだから。しかも私より早く来て私より遅く帰っている。

そんなことを考えながら店の奥へ進むと、来客用のソファーに座っているお客さんと目が合った。

「あっ、いらっしゃいませ」

慌てて挨拶をする。お客さんは軽く頭を下げた。感じのよさそうな男性だ。

いや、そんなことより店長はどこへ行ったのだろう。お客さんを一人で待たせておくなんて。

私は荷物を置くために店の裏を進んだ。その途中で、台所の棚を漁っている店長を見つけた。

「……何やってるんですか、店長」

「あ、雅美ちゃん。お茶どこにしまってあるの?」

どうやらお茶っ葉を探していたらしい。お茶を入れたりするのは普段私の仕事なので、店長はしまってある場所がわからなかったようだ。そういえば、つい昨日台所周りの棚を整理してお茶っ葉の収納場所を変えてしまったのだ。店長に言うのを忘れていた。

私は壁側の棚を開け、お茶っ葉の入った缶を取り出した。

「すみません昨日こっちに片付けたんです」

そう言って缶を店長に渡そうと差し出すと、店長はそれを受け取らずにこう言った。

「じゃあ雅美ちゃん、お茶よろしく~」

店長は店へ戻り、缶を持った私だけがその場に残された。




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