私の仕事を紹介します2




「で、どんな依頼だったんですか?」

「ああ、なんかすっごい宝石のついた指輪を盗まれたらしくて、それを取り返してほしいんだって」

ここは「何でも屋朱雀」。

木造二階建てのボロっちい店内は、趣があると思ってくれたらとてもありがたい。そんなに広くない店内には、大きなカウンターや観葉植物、ファイルのぎっしり詰まった本棚や来客用のソファーとテーブルなんかが置いてある。物は少なく、シンプルな内装だ。

「それって警察のすることじゃないですか」

「でもうちに頼んできたんだからうちの仕事でしょ?」

私はアルバイトの荒木雅美(あらきみやこ)。現在大学一年生。ここのアルバイトは高校三年生の六月からやっていて、今でちょうど九ヶ月目だ。

外見はいたって普通の大学生。髪型は少し茶色に染めたショートカットで、目が悪いので眼鏡をかけている。服装も特に奇抜なものでなく、この時期は寒いので今日もニットを着ている。それと、チビと言った人には鼻フックのご用意が出来ていますのでそのつもりで。

「それはそうかもですけど……。で、私と瀬川君のどっちが行くんですか?」

「リッ君には別の仕事任せてあるから、雅美ちゃん行ってね」

この店の前にやっていた飲食店のバイトがキツくて、仕事量のわりに給料が高いこの店へ面接に来た。どうやらちょうど人手が欲しかったところらしく、採用は一発オーケーだった。

八ヶ月前にいた先輩達ももうバイトを止めてしまい、今この店は私と店長、さっき名前の出た瀬川君の三人だけで切り盛りしている。あまり大きな店ではないので普段は三人でも大丈夫なのだが、たまに複数の依頼が重なったりすると人手が足りなくて大変になる。

「わかりました。今月は結構依頼多いですよね」

「と言ってもまだ四件目だけどね」

とはいってもこの店は基本的に暇だ。毎日閑古鳥が悲鳴をあげている。だからこそ従業員三人でやっていけているのだが。

「今日の夜さっそく盗み返しに行くから。指輪の写真借りといたからちゃんとチェックしといてね」

「はーい」

「何でも屋」というだけあって、依頼も様々だ。家出したペット捜しや夫の浮気調査、今回のような犯罪絡みの事件まで。中には娘を殺した犯人を見つけてほしい……なんてのも。

雑用から犯罪絡みの仕事内容、主婦やサラリーマンから警察に頼みたくても頼めない立場の依頼人。その依頼のひとつひとつを今まで解決してきた。

「わぁ、キレイな指輪ですね」

「婚約指輪にしたいんだってさ」

店長から受け取った写真を見て、思わず溜め息がもれる。宝石には詳しくないので何の宝石かはわからないが、透明なその宝石はきらきらと輝いていてとても綺麗だ。透明だからダイヤモンドだろうか。こんなに大きなダイヤって、いったいいくらするんだろう。

この宝石がダイヤモンドにせよそうじゃないにせよ、こんなに大きな石がついた指輪はさぞかしお高いのだろう。こんなに豪華な指輪を婚約指輪にするなんて、あの男性客は見かけによらずお金持ちなのかもしれない。よく見てみると、宝石だけでなくリングの部分の細工も美しい。

「というか、婚約指輪盗まれるって何事ですか」

この店では仕事の役割が明確に分担されている。街を駆けずり回るのが主に私の仕事、インターネットと独自の情報網を駆使してなんやかんややるのが瀬川君の仕事。とどのつまり実行係が私で、情報係が瀬川君担当なのだ。ちなみに店長は何をやっているのかわからない。先程のように、ブラブラ出歩いては突然帰ってきたり、と思えば目を離した隙にまた出ていったりするのだ。

私だって運動はあまり得意ではないのだが、瀬川君はもっと不得意そうで、仕方なく私が身体を張って仕事をしている。まぁ瀬川君のやっている仕事をやれって言われても無理だろうし、この分担方法が一番ベストなのだろう。私は特に得意なことや才能があるわけではないから、とにかく足を動かして駆け回るしか役に立てないのだ。

簡単に言うと、私の仕事が一番下っ端の仕事。キャリアでいっても私が一番下っ端なのだから何も文句は言えない。

「うんうん、大事にしまっとかなきゃダメだよねー」

言い遅れたけど、この人はうちの店長。名前は相楽蓮太郎(さがられんたろう)。年齢不詳、多分二十代前半。

さっきも言った通り、毎日何をしているのかよくわからない。まぁ給料さえちゃんとわたしてくれたら何も言わないが。……いや、本当はすごく物申したいが!我慢しているのだ!

確かにこの店で一番偉い人間ではあるが、何をしてもいいというわけではないと思うんだよね私は!やっぱり目上の者がきちんと引っ張ってくれなきゃ。せめてちゃんと店に居てほしいものだ。

私が何度注意しても怒っても聞かないし、今日なんてお客さんの前で怒鳴ってしまった。私が何を言ってもダメらしい。瀬川君からも何か言ってほしいのだが、彼は店長放任主義で全く関与しようとしない。瀬川君は私よりだいぶ長く店長の下で働いているらしいから、彼が何か注意してくれたら店長のサボりも少しは改善されるかもしれないのに。

「とりあえず夕方までに詳しい資料揃えるから、なんか適当に準備してて」

「適当に準備って……」

この店のすごい所は、すぐに依頼をこなす所だ。

例えば今日の依頼。指輪を盗んだ人間の家の間取り図、侵入口、住んでいる人達の行動パターンまですぐに調べる。どうやっているのかは私も不思議に思っているが、とにかく情報収集の速さは私も毎回驚かされている。何でも屋っていうのは、「身体を張る情報屋」なのかもしれない。

とにかく、決行は夜。昼間から堂々と泥棒をする人はいないもんね。それまでに瀬川君が情報を集めてくれるだろう。

店長はソファーから立ち上がると、テーブルの上のコップを持って店の裏へ消えてしまった。話し相手もいなくなり、私はいよいよ暇になる。何度も言うが、私じゃ情報収集はできないのだ。

私は顎に手をあて考えた。私が今すべきことは……。

「適当に準備……」

ラジオ体操第二でもするか。



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