子どもたちのいろいろ2




翌日。午前十時半。バイトをするために店にやってきた私は、引き戸を開いてため息をついた。店に誰もいない。店長め、また店をほったらかして出掛けたんだな。

とりあえず荷物を置くために店の奥の自室へ向かうことにする。廊下とも呼べない程の短い廊下を歩いていると、奥から店長の声が聞こえてきた。何だ、ここにいたのか。

「お願いだってリッ君」

「しつこいですよ。潔く諦めてください」

「こんなに頭下げてるのに?」

「下げてるように見えないんですが気のせいでしょうか」

店長の声の他に、瀬川君の声も聞こえてくる。どうやら二人は瀬川君の部屋の前で立ち話をしているようだ。

私は一瞬どうしようと悩む。瀬川君の部屋の前を通らなければ私の部屋には入れない。話中の二人の真ん中を突っ切ってもよいものだろうか。

「何でそんなに頑ななの?泊まりだから?」

「だって店長が行けば済む話じゃないですか」

「ほら、僕は店長だから店にいなきゃいけないでしょ?」

「別に一日くらいいなくても構いませんけど」

ここに突っ立っていたって埒があかない。私は少し背筋を伸ばすと、店長達の方へ歩いて行った。

「おはようございます。何の話してるんですか?」

私の声に、店長とセガワ君は顔をこちらに向ける。

「あ、雅美ちゃん、おはよう……」

「おはよう荒木さん。昨日の依頼の話をしてたんだよ」

二人の反応の違いに、私は内心で「?」を浮かべる。店長が何とも形容しがたい微妙な顔で挨拶を返したので、もしかしたら私が聞いてはいけない話だったのかと不安になったが、瀬川君は話の内容をあっさりと説明してくれた。私に隠すような話ではなかった……ということだろうか。

「昨日の依頼ってドリームランドのやつだよね?それがどうかしたの?」

私は瀬川君に尋ねてみるが、彼は「説明してあげてください」という視線を店長に向けただけだった。

「うんと、まぁ……。とりあえず雅美ちゃんも来たし、店で話そうか」

店長が明らかにお茶を濁した発言をする。しかし瀬川君はその提案を断った。

「すみませんが、僕には他の仕事があるので巻き込まないでもらえますか」

そう言って店長が反論する前にドアを閉めてしまおうとする瀬川君。しかしドアが完全に閉まる一瞬前に、店長がドアに手をかけた。

「ちょ、ちょっと待って。一人だけ逃げるのはナシ」

「逃げてるのは店長だけじゃないですか」

「だったらリッ君が行ってくれればいいじゃん。何でそんなけち臭いこと言うの」

「けち臭いと思ったのならそれで結構です。ドアが閉まらないので離してください」

「リッ君こそドアが閉まっちゃうから手離してよ」

二人が何の話をしているのか全くついて行けていない私。ただ、ドアをこじ開けようとする店長に対抗して、全体重をかけてドアノブを引いている瀬川君を見て、こんなに生き生きした瀬川君初めて見たなと感動していた。



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