錆びついた耳鳴りが叫んでいる5




大人として、「貪欲な向上心を持て」「何にでも進んでチャレンジしろ」と語った事があった。次の日の夕方、ニュースの速報を見て、私は自分の言葉を後悔した。

そんなつもりで言ったんじゃない。当たり前だ。私はただ大人として、社会人として必要な向上心を教えただけだった。

あのあと、私は殺害すべき女性の情報と浮島さんの連絡先を神原君に教えた。やはり私は彼の低すぎる温度に怯えていたようだ。

ニュースでは、身体を八つ裂きにされた女性の遺体が発見されたと報じていた。遺体の近くに落ちていた荷物から、被害者は市内に住む花木咲さんだと判明した。浮島さんが殺してくれと願った、あの女性だった。

私はテレビを消した。報告書を載せたら部下達もすぐに知る事になるだろう。私は店を出て、階段を上った。まだ何も知らない部下達の顔を見ているのが辛かった。

神原君は、今日は仕事に来なかった。

その三日後の事だった。私が妻の作った弁当を食べていた所、高瀬君が慌てて店に入ってきた。お昼時、店には数人の部下しかいなかった。

「店長!見ましたか!?これ!」

高瀬君は一目散に私の方に近寄ってきて、手に握りしめていた新聞をデスクの上に開いた。小さな記事を指差す。

「ここ!この前の浮島さんが……」

そして周りを見回す高瀬君。だが、報告書がパソコンを通じて公開されている。社員どころかアルバイトまでこの依頼を知っていた。皆、「浮島」という名前に反応し、こちらを見ている。

私は高瀬君の指差す記事を読んで愕然とした。

【女子大生、頭殴られ死亡】

見出しの下には、浮島円香さんが何者かに鉄パイプで頭を殴られ工事現場で亡くなっているのが発見された、と説明されていた。

「どういう事だ?まさか神原君が……」

慌てて口を押さえた。だが、同じことを思っていたのだろう、高瀬君は何も言わなかった。

そのあと、仕事に来た神原君を問いただしたが、彼は「それはボクやないですわ」と笑っただけだった。

正直私は神原君のその言葉を信じてはいなかった。もしかしたら。そう思っていた。結局、後味の悪いままこの仕事は終わり、私は荷太郎に店を任せ黄龍へ移動した。




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