ついに決行!偶然を装ってバッタリ大作戦!4
まず最初に向かったのはエレメントスパークだ。すごく早くてスリル満点と人気の高いジェットコースターである。パーク内を隅から隅まで高速で駆け抜けるそのジェットコースターは、乗るとテンションが上がること必至だ。絶叫系が得意な人は、だが。
頭上を伸びるレールを辿ってみても、やたらにうねうねしていたり回転していたりと、絶叫レベルは相当なものだろう。空高く伸びている箇所もあり、あの高さまで上がったら落ちる時はものすごいスピードだと思う。私はこれに耐えられるだろうか。
「あ、あのさ、しょっぱなから悪いんだけど、ジェットコースターは得意な人だけにしない?」
すでに列の最後尾に並んではいるが、私は勇気を出してそう提案してみた。みんながこちらを振り返る。
「あれ、荒木さん苦手な人だっけ」
「ちょっと……。もう並んじゃっているのに悪いんだけど」
「いいよいいよ、苦手な人に無理強いするのも良くないし」
藍本さんの言葉に椏月ちゃんと花音ちゃんも頷いた。よかった、私が抜けるのをみんな快く了解してくれた。場の空気を乱すようでなかなか言い出せなかったのだ。
それに、独尊君を見守っていなければという責任感もあった。だがそれも大丈夫そうだ。このジェットコースターは一列で四人座れる。今の並び順のまま乗り場まで行けば独尊君は花音ちゃんと隣の席になれるだろう。当然のように反対側は唯我さんだが。
「他に苦手な人いない?抜けるなら今のうちだよ」
私はそう尋ねるが、誰も名乗り出なかった。私は意外に思って唯我さんに尋ねる。
「唯我さんとか大丈夫?」
「私、こういうの得意なんですよ。どー君の方が強がりなくらいで」
唯我さんの一言に独尊君が「そんなことねーよ」とどもり気味に呟いた。花音ちゃんの前でかっこ悪いところを見せなければいいが。
「じゃあ私だけ抜けるね。あそこのベンチで待ってるから」
私はアトラクションの出口の近くにあるベンチを指差した。あそこなら出てきた方も待っていた私もすぐに相手に気づくことができるだろう。
私が皆に背を向けて列を逆走しようとした時、瀬川君が声をかけた。
「荒木さん、僕も行く」
「瀬川君もジェットコースター苦手?」
瀬川君はその問いに少しの間黙ると、こくりと一回頷いた。私と瀬川君は連れ立ってアトラクションの外へ向かう。列を逆走する私達に何人かが迷惑そうな顔をしたが、私はその都度小さく頭を下げた。
アトラクション出口近くのベンチに二人並んで腰掛けた。私達の間には微妙な空間がぽっかり空いている。だが先に腰を下ろしたのは私なので、この空間を作ったのは瀬川君だ。このなんだか気まずい空気も決して私のせいではない。
「あ、瀬川君、喉乾かない?確かさっき売店あったから私買ってこようか」
無言なのはあまりにも居心地が悪いのでそう声をかけたら、瀬川君は「荒木さんは喉乾いてるの?」と逆に質問してきた。まさか質問に質問で返されるとは思っていなかったので、私はつい正直に「ううん、大丈夫」と答えてしまう。
「じゃあ僕もいいよ」
「そっか」
私はなるべく笑顔を作って答える。私たちの間にはまた沈黙が流れた。しまった、自分は喉が乾いていると答えておけば、売店に行くためにこの場を離れることができたのに。
いや、それじゃだめだ!私は心の中でぶんぶんと頭を振った。今日は独尊君の応援に来ているが、私には瀬川君と仲良くなるという目的もあるのだ。ここで逃げてどうする。
「何分くらいでみんな帰ってくるんだろうね」
「さあ……。さっき係員が四十分待ちって言ってたから、一時間くらいで帰ってくるんじゃないかな」
つまらなさそうに前を向いたまま答える瀬川君に、私は「そっかぁ」と返した。再び、無言。
思えば、今の質問は失敗だったのではないだろうか。みんなの帰ってくる時間を気にしているということは、みんなに早く帰ってきてほしいということ。それって瀬川君と二人きりなのが苦痛だからと受け取れないか!?どうしよう、そんなつもりで言ったんじゃないんだけど。ただ他に話題が思いつかなかったから……。
「そういえば」
私は瀬川君の声にパッと顔を上げた。瀬川君は少しだけこちらに顔を向ける。
「何でこの集まりを計画したの?」
「え……、何でって、ほら、いろんな店の人が仲良くなれたらいいなーと思って」
突拍子もない質問に、私は言葉に詰まりながら答える。この建前は事前に説明してあるはずだが、それともこれが建前で裏に本当の狙いがあることを気づかれているのだろうか。
「そっか」
「うん。知り合いがいっぱい増えた方が楽しいでしょ」
「そうかもね」
再度、沈黙。だが今度の沈黙にはお互いに探るような感触がある。私は瀬川君がどこまで気づいているかを、瀬川君は私がこの集まりを計画した真の理由を気にしているのだ。
「そういえば瀬川君はどうして今日来てくれたの?最初は行かないって言ってたのに」
沈黙に耐えきれなくなった私がそう声をかけた。これはこの間から気になっていたことでもある。少しの間があって、 瀬川君がそれに答えた。
「……なんとなく」
「そっか、なんとなくかぁ。でも来てくれて嬉しいよ。ありがとう」
これには無言。なので続けて私が口を開く。
「瀬川君は仕事で他の店にも行ってるけど、その時他の店の人と仲良くなったりするの?」
「あんまり。話すのはだいたいその店の店長だから」
「そっか、じゃあ今日で他の人とも仲良くなれるといいね」
とは言ったものの、瀬川君はあまりそれを望んでいないらしい。彼は学校にも友達が少なそうだが、それが寂しくはないのだろうか。私だって友達かと聞かれたら答えはノーだろう。だが瀬川君には友達を作る努力をするつもりはないらしい。
そうこうしているうちに他のメンバーが帰ってきた。皆どこか吹っ切れた顔をしている。ベンチの前を通過する彼らを見つけて手を振ろうと思っていたが、瀬川君との会話を繋ぐのに必死で忘れてしまった。とにもかくにも、私は彼らを出迎えた。
「おかえり、どうだったって……って、どうしたの独尊君?」
「気分が悪くなってしまわれたそうですわ」
真っ青な顔でふらふらと歩く独尊君にそう尋ねると、隣にいた花音ちゃんがケロッとした顔で答えた。私は内心で「あちゃー」と思いながら、とりあえず独尊君を心配する。
「大丈夫?そこのベンチで少し休む?」
「……いい」
「強がらない方がいいよ。途中で吐かれても嫌だし少し休みなよ」
それでも拒否する独尊君を、私は無理やりベンチに座らせた。他のメンバーに飲み物を買ってくると告げて近くの売店へ行く。
売店の列に並んで私はため息をついた。独尊君よ、なんてカッコ悪いところを見せてしまったんだ君は。さっきの花音ちゃんの呆れ顔を彼にも見せてやりたかったよ。
無事に飲み物を手に入れベンチに戻る。ベンチでは唯我さんは独尊君についていたが、他の面々はジェットコースターについて楽しく談笑していた。特に藍本さんと椏月ちゃんが盛り上がっているようだ。瀬川君は相変わらず一歩離れた位置で突っ立っている。
唯我さんは私に気がつくと一つ横にずれた。私が飲み物を差し出すと、独尊君は存外素直にそれを受け取った。
「大丈夫?独尊君」
「ああ、悪いな」
「ほんとだよ、もう」
私は本人の目の前にも関わらずため息をついた。今のうちに独尊君に少々伝えておきたいことがあるのだが、それには唯我さんが邪魔だ。申し訳ないが今だけ離れていてくれないだろうか。気取られずに唯我さんも引き剥がす方法を考える。
「唯我さん、あの……」
「兵藤さん!少しこちらに来ていただけません?」
私が無計画のまま口を開いた時、花音ちゃんが唯我さんを手招きした。兵藤さんと言われれば、唯我さんも独尊君も兵藤だが、今呼ばれたのは唯我さんの方だと花音ちゃんの視線でわかる。
呼ばれた唯我さんは独尊君を私に任せるとそちらに駆けて行った。なんだかわからないがとりあえずナイスだ、花音ちゃん。
みんなとそんなに離れているわけではないが、この距離なら小声で話せば聞こえないだろう。私は独尊君に顔を近づけると、早速お説教を始めた。
「ちょっと独尊君、君さっきからやる気あるの!?」
「な、何だよいきなり」
「何だよじゃないでしょ!トークもイマイチ、だかがジェットコースターでゲロ吐くような人を花音ちゃんが好きになると思う!?」
「ゲ、ゲロはまだ吐いてないだろ」
「今にも吐きそうな顔してたじゃん」
私は大きく息を吐き、一旦気持ちを落ち着かせた。時間はあまりない。そのうちメンバーの誰かが「そろそろ次のアトラクションに行こう」と言い出すだろう。余計な小言は言わずに的確にアドバイスしなきゃ。
「あのね、独尊君の様子を見てて思ったアドバイスだからよく聞いてね」
そう前置きすると、独尊君は一応口を閉じた。
「まず何で花音ちゃんに敬語使ってるの?」
「だって花音さんの方が年上だし」
「私も一応年上なんだけど。それはいいとして、年上って言っても一個しか変わらないじゃん。最初から敬語使ってるとタメ口に切り替えるタイミング逃しちゃうよ?」
これには独尊君も完全に同意だったのか、もごもごと口を動かしたが結局何も言わなかった。
「緊張してつい敬語になっちゃうのは分かるけど、そこはガッと行かないと。ガッと」
「わ、わかったよ」
「あと、ジェットコースターで気分悪くなっちゃうのは私も仕方ないと思うけど、それにしても頼りなさ過ぎ。会話も独尊君がリードするくらいの気構えでいなきゃ」
私はちらっと背後を伺った。いつの間にか唯我さんと藍本さんと椏月ちゃんが三人で話していて、珍しく花音ちゃんと瀬川君が言葉を交わしている。瀬川君から花音ちゃんに話しかけることはほとんどないだろうから、花音ちゃんは唯我さんを呼んで早々に集団を抜け、離れた位置にいる瀬川君に声をかけたのだろう。一体どういうつもりだろう?とにもかくにも、私は今のうちに一番独尊君に言っておきたいことを伝えておくことにする。
「直接聞いたわけじゃないし私の勘なんだけど、多分花音ちゃんって頼りになる人がタイプだと思うんだ。次のお化け屋敷、何とかして独尊君と花音ちゃんをペアにするから、絶対頑張ってね」
「頑張ってって言われても……」
「へっぴり腰禁止、語尾が弱るのも禁止、ハキハキ喋る、堂々とする!」
私はそう言って独尊君の肩をパンッと叩いた。そろそろ二人で内緒話をするのも限界だ。私達もみんなに混ざった方がいいだろう。
私が振り返ってメンバー達の方へ向かおうとすると、独尊君が腕を掴んでそれを引き止めた。振り向くと独尊君は一層小声になってこう尋ねる。
「なぁそれって花音さんの好きな人が頼りになる奴だってことか?」
駅のやり取りの時花音ちゃんの好きな人が気づかれたかと思ったが、どうやらそういうわけでもないらしい。私は思わずちょっと口角を上げるとこう答えた。
「残念だけどものすごく頼りになる人だよ」
独尊君の表情が少し曇った。
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