ついに決行!偶然を装ってバッタリ大作戦!5




独尊君の体調も回復し、再び七人で固まった私達は次のアトラクションであるホラーマンションへやって来た。一昔前の洋風の高級マンションをイメージしたお化け屋敷で、 雰囲気作りが結構凝っていて人気らしい。

ジェットコースターに引き続きお化け屋敷だ。正直私はホラー系も苦手なのだが、ジェットコースターはパスしたのでお化け屋敷まで拒否するわけにはいかない。そんなことをしたらさすがにメンバー間の空気が悪くなるだろう。

「このアトラクション二、三人に分かれるらしいよ。メンバー分けどうする?」

列に並んでいる最中、私は雑誌を広げながら今気づいたという口調で言った。本当はそんなこと元々知っている。このページを見たとき、独尊君と花音ちゃんを急接近させるのにぴったりだと思ったのだ。

「やっぱりグッパじゃね?」

藍本さんが右拳を差し出しながら提案する。だがグッパじゃメンバー分けが完全に運任せになってしまう。もっとイカサマできる方法にしないと……。

「あ、あたしトランプ持ってますよ。これでくじにしましょうよ」

椏月ちゃんはカバンの奥底からトランプの箱を取り出すと私に差し出した。私はありがたくそれを受け取る。トランプでくじなら小細工ができそうだ。

「つーか何でトランプなんて持ってんだ?」

「電車で暇だったらいるかなと思って」

「帰りの電車も多分座れないんじゃないでしょうか?」

「ですが椏月さんは店でもよくトランプで遊んでいるのですわよ」

椏月ちゃんがトランプを持ってきた理由について話している間に、私はトランプを選り分けた。スペードとダイヤは二枚ずつ、ハートは三枚。同じマーク引いた人が組みになる。

「はい、トランプを分けたからみんな引いて」

と言いつつ、私は心持ち花音ちゃんの近くに広げだトランプを差し出した。マークの場所は全部覚えている。まずは花音ちゃんに引かせて、彼女と同じマークのカードを独尊君に引かせればいい。

私の仕組んだ通り、花音ちゃんが一番初めにトランプを引いた。こういうとき人は一番目になるのを躊躇うのだ。すると必然的にそれをしやすい人が一番目を買って出ることになる。

私は花音ちゃんがトランプを引いた瞬間、他の人も引きやすいようにというふうを装って、カードの先を独尊君に向けた。 眼力で一番右のカードを引けと念じる。

独尊君がトランプに手を伸ばす。だが私の眼力が足りないのか、花音ちゃんとペアなのは一番右のカードだと伝わっていないようだ。彼は一番右とその隣で一瞬迷う。これ以上アピールしたら周りに不正がバレてしまいそうだが仕方ない、私は思いっきり一番右に目に見えぬ力を込め独尊君に差し出す。この間わずかコンマ数秒、だがそれよりも早く、独尊君の隣の瀬川君が一番右のカードをかっさらっていった。

「…………」

「…………」

思わず唖然となり手が止まる私と独尊君。私達が固まっていることになんて気づかずに、次々とカードを引いてゆくメンバー達。おそらく瀬川君は独尊君が迷っているから「こんなの運なんだからさっさとしろよ」と思いつつ先にカードを引いたのだろう。彼は独尊君のために待っていてやるような人間ではない。それに瀬川君からしたらお化け屋敷のペアの相手なんて誰でもよく、それこそ運の一言なのだ。

結果独尊くんは残った二枚のうちの一枚を引き、それは一番右のトランプの隣にあった物だった。私は独尊君が選ばなかった方のカードを引く。いくら全てのカードのマークと場所をチェックしていたといえども、唖然としているうちに引かれてしまったカードの行方なんてわからない。誰がどんなペアになってるか、私でもドキドキだ。

「じゃあせーのでトランプ見せようぜ」

藍本さんの一声で私たちはカードを前に出す。表を向けて円状に並んだカードを見て、みんな各々の反応を見せた。

カードのマークは私から順番に、私ダイヤ、藍本さんハート、椏月ちゃんハート、唯我さんハート、花音ちゃんスペード、独尊くんダイヤ、瀬川くんスペードだった。開かれたカードをに目を走らせて花音ちゃんが思い切り苦々しげな顔をする。

「やり直しを希望いたしますわ!この結果に不服を申し上げます!」

場の空気を読まず主張する花音ちゃん。藍本さんは花音ちゃんのカードを覗き込み、他の人のカードをざっとチェックした。

「何、相楽さん瀬川君と組むの嫌なの?」

「嫌か嫌でないかと聞かれたら、嫌!ですわ!」

不満バリバリの花音ちゃんに藍本さんははやれやれという顔をする。自分の先輩が他店の人に失礼な態度をとっていると、椏月ちゃんは珍しくあわあわしながら花音ちゃんを見ていた。

やがて、花音ちゃんがついに瀬川君本人に不満をぶちまける。彼女は瀬川君にビシッと人差し指を突きつけると、眉を吊り上げながら言った。

「どーーして私が貴方なんかとお化け屋敷に入らなければならないんですの!」

「君がそのカードを引いたからでしょ。こっちだっていい迷惑だよ」

「だったら貴方がそのカードを引かなければよかったんじゃありませんの!」

「今更何言っても遅いよ。それよりもこんなに騒いでいるの君だけだけど恥ずかしくないの?」

不平不満をぶつけてくる花音ちゃんに、瀬川君もイライラしながら応戦する。まったく、なんで花音ちゃんにはやり返すんだ瀬川君は。

さすがにそろそろ止めなきゃやばいと、私は二人の間に割って入った。

「二人とも一旦落ち着こう」

そう言って二人を引き剥がすが、すぐに花音ちゃんが私に詰め寄った。

「雅美さんお願いですわ、くじ引きをやり直してくださいまし」

「うーん、それはちょっと……」

一回やり直したら全員の不満がなくなるまで何度でもやり直さなければならなくなる。そうするとくじ引きにした意味がない。何とかして花音ちゃんを落ち着かせる方法を考えないと……。そこで私は自分のトランプのマークを見て、そして閃いた。

「そうだ、花音ちゃん、だったら私のカードと交換しない?」

「交換ですの?」

「うん、瀬川君以外の人だったら大丈夫でしょ?」

「そうですわね、そういたしますわ。ありがとうございます、雅美さん」

花音ちゃんは私の手からカードを受け取ると、そのマークを確認した。私は独尊君にこっそりと親指を立てる。独尊君は「感謝する!」という意味のジェスチャーをしたが、このやりとりを見ていた者はおそらくいないだろう。

かくしてみんなが満足できるペア決めは終わった。結果、一番目が藍本さんと椏月ちゃんと唯我さん、二番目が独尊君と花音ちゃん、最後が私と瀬川君という形になった。お化け屋敷に入る順番は単純にジャンケンをして勝った順ということになったが、独尊君の次ならいざとなった時アシストができるかもしれない。

そのうちに私たちの順番がやってきて、まずは藍本さん達三人がホラーマンションの中に入っていった。入口で係員から蝋燭を模した照明を受け取っている。

数分後、独尊君と花音ちゃんのペアがスタートした。私は独尊君の背中に頑張れと念を送った。ただ、ホラー系は苦手ではないのか花音ちゃんに怖がっている様子はない。むしろ独尊君の方がビビっているようだ。大丈夫だろうか。

更に数分後、今度は私と瀬川君の番が来た。入り口でおばけのメイクをしているお姉さん達に蝋燭の器具をもらう。アトラクション内は薄暗く、この照明では足先までは照らしきれなかった。

「けっこう雰囲気あるね」

すでに心臓が縮みそうになっている私は、恐怖心を紛らわすため隣の瀬川君に話しかけた。彼は「そうだね」と答えただけだった。冷静な瀬川君といれば、おばけ役に驚かされても落ち着いていられるかもしれない。

アクション内のどこかで甲高い悲鳴が聞こえた。おそらく私達より前に入ったペアのものだろう。怖いという噂は本当のようだ。私はさっさと進む瀬川君の後をへっぴり腰でついていった。



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