あたたかいのはマフラーのおかげ?3





「店、ほったらかして大丈夫ですか?」

「大丈夫大丈夫。どうせお客さんなんて来ないし、年末くらい休んだっていいと思う」

まぁ、それは確かに……。

ということで、私達は三人並んでショッピング街を歩いていた。店長を真ん中に挟んで、たまに冷たい風が吹く街をテクテク歩く。

街は意外にも人が多く賑わっていた。みんなこんな日でもお出かけするんだね。家族連れが多い印象だ。

「そういえば瀬川君は今年何かもらったの?」

「まぁ……今年というか毎年」

毎年!?それを聞いて私は店長に突っ掛かる。

「酷い!私去年何ももらわなかったのに!」

「だって何も言わないんだもん」

瀬川君が誕生日プレゼントを催促したとも思えないんですけど!

なんて奴だ、本当に酷い。同じアルバイトなのに私にだけくれないなんて!私が仕事できないからか!?そうなのか!?

「荒木さんは何買ってもらうの?」

「えーと、まだ決めてない……」

何買ってもらえばいいんだろう。少し考えてみたが何も浮かばなかった。上司に買ってもらう誕生日プレゼントって悩む。むしろケーキでいいよもう……。

そう考えたところで、ケーキ買うと言っていた母との今朝の会話が蘇ってきた。でもあんなの一個売りのケーキだし、ワンホール三人で食べるって夢がない?

「そういえば雅美ちゃん明日どうする?来るんなら蕎麦買っておくけど」

「行きますよ。瀬川君も来るよね」

「まぁ……」

瀬川君は去年も来たしね。来たからといって、仕事をしていたわけじゃなくて、なんかダラダラのんびり過ごしていただけなような気がする。みんなで蕎麦食べながらテレビ見てたっけ。なんにせよ、瀬川君が仕事以外の目的で店にいるのは珍しい。

それにしても、年末年始こんなにヒマなのってたぶんうちくらいだよね。他の店舗は忙しそうなイメージを勝手に持っていた。こんなに暇なら今日くらい掃除でもすればいいのに。

「そういえば去年は瞳ちゃんがいましたよね」

「あぁ瞳ちゃんね。受験って言って辞めたけど結局大学落ちた瞳ちゃん」

「えっ、落ちたんですか!?」

「落ちたよ。で、別の大学行ったみたい」

そういう情報って、どっから仕入れてくるんだろう。まさかまだ瞳ちゃんと連絡取ってるとか……?それとも瞳ちゃんを知ってる人と知り合いなのかな。

瞳ちゃんは優しい人だったけれど、年明けてすぐ辞めちゃった。多分三学期が始まるのに合わせて辞めたんじゃないかな。まぁ、その時からだんだん仕事には来なくはなっていたけれど。

それにしても、大学落ちたのかぁ。勉強頑張ってたのになぁ。私は推薦で受かっちゃったのに。とはいうものの私は一発芸で美大だし、瞳ちゃんはなかなかレベルの高い大学目指してたみたいだ。

「今年は三人ですねー」

「雅美ちゃんの後全然入って来ないよね」

「もう一人来たじゃないですか、ほら、一個下の……」

「たっちん?」

「そう、橘君。まぁ、一週間で……辞めましたけど……」

「…………」

「…………」

「…………」

途端に静かになる私達。まぁ、橘君の一週間は最短記録だしね。

それに私この前橘君が駅前のコンビニでバイトしてるの見かけちゃったし。さすがに話しかける事はできなかった。いくら何でも気まず過ぎる。

私はこの仕事をいつ辞めるんだろう。でも将来的にはどこかに就職する訳だから、いつかは辞めなくちゃいけないんだよね。……私、この仕事辞められるかな。

「リッ君、今年も紅白一緒に見ようね」

「えっ、瀬川君帰らないの?」

「家にいても暇だし……」

瀬川君は興味なさ気に呟いた。

そんなの親が許すのだろうか。放任すぎやしないか?

「親とか何も言わないの?」

「まぁ」

「リッ君の所はわりと放任主義だよね」

「その方が楽で良いんですけどね」

「うん、僕も年末寂しくなくていい」

「花音ちゃんがいるじゃないですか」

「誰それ宇宙人?」

彼女の名前を出してふと気がついた。そういえば去年は花音ちゃん店に来なかったな。来てたらその時知り合いになってるはずだし。

年末だし、誕生日だしで押しかけて来そうなものだけれど。玄武店は仕事があったのかな。花音ちゃん、立場的には店長の妹だから、業務量もあるんだろうなぁ。

隣を歩く店長を見てみた。口を開こうとして刹那で思い直す。……聞くのは止めておこう。店長の機嫌が悪くなったら面倒臭いし。




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