てんやわんやで大団円4
「はぁぁあ」
一時間四十分後。やっぱり私はこんなため息もどきをついていた。
鈴木さんも栗山さんも、ずっと微動だにせず電柱の影に隠れている。無意識のうちにケータイを開いて時刻を確認する。十一時四十分。さっきケータイを開いてから一分しか経っていない。
あの二人は二時間近くもいったい何をしているんだろう。もう直接「何してるの」って聞きたいくらいだ。
「何してるの?」
「うわあっ!」
突然背後から聞こえた声に振り返ると、そこには私の後ろに隠れるようにして瀬川君が立っていた。私が何かから隠れるようにしていたので、彼なりに空気を読んでの小声だったのだろう。が、その小声で逆にビックリさが増してしまった。
「お、おはよう。瀬川君」
「おはよう」
突然背後から声をかけられて、ビックリして何と言ったらいいのかわからなかったので、私は反射的に挨拶をした。
「それで、何してるの?」
瀬川君はいったん挨拶を返してから、再び先程と同じ質問をした。そうだよね、その答えを言えばよかったんだよね。
口では説明しづらい状況だったので、何と言おうかしばらく迷ってから、とりあえず私は栗山さんを指差した。
「えっと……。あれなんだけど……」
私の指差す方を見た瀬川君は、まず栗山さんを見つけて、次に鈴木さんを見つけると、この状況を全部飲み込めたらしく「ああ」と呟いた。
「あの二人何してるのかな……?あ、瀬川君は店長と交代?」
「そう、でも」
今度は私が瀬川君の指差す方を見る番だ。瀬川君の示したアパートの二階に目を向けると、自分の部屋のドアから出ようとしている革口さんの姿があった。どこかへ出掛けるところなのだろう。
鈴木さんと栗山さんの様子を見てみると、二人とも革口さんに注目している。
「ちょうどよかった。僕はこのまま革口さんについていくよ」
「じゃあ雅美ちゃんは栗山さん達に着いてったら?」
「うわぁ!て、店長、いつの間に!?」
いきなり背後から話に入ってきた店長に、私は飛び上がる。店長といい瀬川君といい、どうして突然後ろから声をかけるのか。
「革口さんが出かけるから僕も出て来た」
そう説明して店長は、私達の誰一人の存在にも気づいていない革口さんの歩いて行く後ろ姿を見た。革口さんの後ろには鈴木さんがついていき、その更に後ろに栗山さんがいる。そして、栗山さんの後ろに瀬川君の後ろ姿があった。
「僕店に帰るから、雅美ちゃんついて行きなよ」
「え、でも睡眠時間が……」
店長の提案に渋る私。鈴木さんや栗山さんの行動理由ももちろん気になるけど、それで眠気が消えたわけではない。今寝ないでいつ寝るというんだ。
「そんなの何とでもなるって。だって栗山さん達気になるでしょ?」
「気になるなら店長行ってくださいよ。私店で寝ますから」
「だって僕気にならないもん」
何故こんなに私に彼らに着いていくよう勧めるのだろう。私に尾行をさせたい理由があるのだろうか。
「わかっても教えてあげませんからね」
「いいよ。だって気にならないもん」
私はもう一度「ほんとに教えてあげませんからね。あとから気になっても知りませんからね!」と言い、店長は三度目の「今後も気にならないからいいよ」を答える。
仮眠を諦めた私は、店長に「行ってらっしゃーい」と手見送られながら、すでに歩き出していた瀬川君を小走りで追いかけた。
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