無知は罪であるか否か3
「じゃ、帰るな」
「蓮太郎さん、三日以内にまた来ますから!必ずですわ!」
陸男さんは片手を上げ、花音ちゃんは手を振って、店を出て行った。私は静かに店内を見回したが、それはそれは酷い有様だった。あの折れた観葉植物、どこに捨てればいいんだろう……。
散乱したファイルをひとつ拾い上げたところで、店の引き戸が音をたてて開いた。顔を上げると、そこには帰ったはずの花音ちゃんが立っている。片付けを手伝ってくれるのだろうか。
「荒木さん、少々お話があることを忘れておりましたわ」
花音ちゃんはこちらに近づくと、私の腕をガシッと掴んだ。私は思わずファイルを取り落とす。うーん、握力も強いね。
「それでは蓮太郎さん、ごきげんよう。今度はお兄様の邪魔が入らない場所でお会いしましょうね」
花音ちゃんはニコッと笑って店長にそう言うと、私を半分引きずるようにして店を出た。振り返って店長に助けを求めたが、奴は安心したような顔で手を振っていた。
「は、話って何?」
ズルズルと引きずられるまま店から三百メートル程離れたところにやってくる。どこまで連れていかれるかわからないので、さすがに私は声をかけた。すると花音ちゃんは背後を振り向いてから立ち止まり、パッと私の腕を離した。
「先程あの殿方に言われたことですわ」
「……瀬川君のことかな?」
「おそらくそうですわ」
花音ちゃんはすぐ側の木陰の大きな石に腰をおろした。私もその隣に座る。
花音ちゃんが黙ったままだと思っていたら、店の方からバイクを押した陸男さんがやって来た。どうやら彼が来るのを待っていたらしい。陸男さんは私達の前まで来ると、タバコをくわえて火をつけた。
「さっき瀬川君と何の話してたか気になってたんだ。すぐ帰ってきたし」
「少々頼み事をされていたのですわ」
「頼み事?」
私から切り出すと、花音ちゃんは先程までとはうって変わって静かな調子で答えた。私は花音ちゃんのことをまだよく知らないが、もしかすると彼女は店長がいないところではわりかし静かな子なのかなと思った。
それにしても、瀬川君が花音ちゃんに頼み事?確かに私と花音ちゃんはつい最近知り合ったばかりだから、瀬川君と花音ちゃんがどれくらい仲が良いのかは知らない。ただ何となく、二人は顔見知り以上友達未満なのだと思っていた。瀬川君が花音ちゃんに頼み事なんてちょっぴり意外だ。
私がそんなことを考えているうちに、花音ちゃんは話を始めた。私は慌てて意識を引き戻す。話始めた花音ちゃんの表情は、昔を思い出しているように何故か感じられた。
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