Boys be ambitious3
私はやりきれない気持ちになった。この感情をどこにぶつけたらいいのかわからない。今朝まで綺麗にすっきりと並んでいたファイル達が、今では無惨に散らばっている……。中にはページが飛び出してしまっているものもあって、整理し直すのは骨が折れるだろう。
私は散らばったファイルの上に膝をつき、そのままへたり込んだ。腹の中を色々な感情が渦巻いている。怒り、悲しみ、憎しみ、虚しさ、やるせなさ。こんな子供相手に……という悔しさ。ただの子供のいたずらじゃん、と言い聞かすたび苦しくなる。
なんだか馬鹿馬鹿しくなって目が潤んできた。なぜだかとても悔しかった。感情の持って行き場が分からずイライラした。私の様子を見て、兄弟が顔を見合わせたのが気配で分かる。
と、ここで、店の奥で物音がした。瀬川君かとも思ったが、近づいてくる足音で店長だと分かった。朝からどこに行っていたのか知らないが、ようやく帰ってきたらしい。店長は店に出てくるとその惨状を見回した。
「何これ」
足元のファイルを何冊か拾い上げてこちらに近づいてくる。兄弟はバツの悪そうな顔をした。二人は口ごもっていたが、やがて兄の方が口を開く。
「ヒ、ヒーローごっこしてた……から……」
そう言って許しを乞うように店長を見上げる。弟もさっきまでのマセガキっぷりはどこへやら、その顔は半泣きになっていた。店長は小さくため息をついて静かな声で言った。
「片付けなさい」
二人はしゅんとして「はい……」と返事をした。二人がファイルを拾い始めたので、店長は私に目を向ける。私は涙目を見られるのが恥ずかしかったので慌てて下を向いた。
「で、雅美ちゃんは何でそんなところに座ってんの?」
「いや、あの、戦いに負けたと言いますか……」
私はさりげなく目元の涙を拭った。いつまでもファイルの上にへたり込んでいるわけにもいかない。私は何でもありませんよというアピールで、元気よく立ち上がった。黙々とファイルを拾っていた兄弟に店長が声をかける。
「二人とも雅美ちゃんにちゃんと謝った?」
その問いに二人は「え……」という顔をする。いや、実際兄の方は声に出ていた。二人は完全に私を見下していたから、謝罪するのはプライドが許さないのだろう。
「謝って」
店長に促されると、兄弟は気まずそうに私の方を向いた。二人はどちらが先に謝るのかを目線で押し付け合っていたが、結局兄の方が先に頭を下げた。
「ご、ごめんなさい……」
「ごめんなさい……」
兄に続き弟も頭を下げる。私はどうでもよくなって「もういいよ」と言った。さっきまでは惨めな気持ちだったが、それはもう消えている。さっぱりはしていないが。本当にどうでもいい気分なのだ。
しかし店長はそれを許さなかった。
「二人は何について謝ってるの?それもちゃん言葉にして謝って」
兄弟は「えっと……」や「あの……」などと言って時間を稼いでいたが、やがて口を開いた。今度は弟の方が先だった。
「あの……そのお姉さんに、チョップとかして……ごめんなさい」
弟の言葉を聞いて兄も続く。
「ごめんなさい。えと、チョップしたのは僕です」
しかし店長は、この謝罪では満足しなかった。膝を折って兄弟に目線を合わせると、俯く二人に向かって更に追撃する。
「それだけ?二人が悪いのはチョップしたことだけだった?」
二人はしばらく狼狽えていたが、泣く寸前の震えた声で言った。
「お姉さんに注意されたのに聞きませんでした。ごめんなさい」
「お姉さんに怒られてもずっとふざけてました。ごめんなさい」
先に謝ったのは今度も弟が先で、弟に倣って言葉を考えた兄が続いた。
店長は立ち上がると、床についていた左膝を払った。
「雅美ちゃん、こいつらが片付けサボらないように見といて」
店長は兄弟の頭を順番にぽんぽんと叩くと、店の裏へ消えていった。手に紙袋を持っていたが、何か買いに行っていたのだろうか。それとも何か貰いに行っていたか、何か引き取りに行っていたか。この中のどれかだろうが、どれなのかも紙袋の中身も私には分からない。
兄弟は私と三人きりになって決まりが悪そうにしていたが、店長に怒られるのは嫌なのか黙って片付けを始めた。仕方がないから私もそれを手伝う。私は悪くないしこの二人にやらせるべきだとも思ったが、まぁ他にやることもないしね。ファイルの並びもちゃんと日付順にしたいし。
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