曇り空じゃ見えない2
五年前五月。時刻は午前八時半。空導高校三年二組、相楽蓮太郎(さがられんたろう)は昼食を買うために通学路の途中にあるコンビニへ来ていた。目当てのハンバーグ弁当を購入し自動ドアをくぐって一歩踏み出したところで、聞き覚えのない声に背後から声をかけられた。
「ちょっと君」
今この辺りには自分しかいないし、明らかに自分に向かって声をかけているとわかったが、関わり合いになるのが面倒臭かったので蓮太郎はもちろんその声を無視した。
「君!ちょっと!聞こえてるだろ!」
その人物はなおも話しかけてくるが、それでも無視を貫く。聞こえないふりをして学校への道のりを歩いた。
「ちょっと!」
無視を続けていたら、ついに声の主が肩に手をかけてきた。蓮太郎はさすがに振り返る。するとそこには少し低い位置に自分を睨みつけている男性の頭があった。
「……何?」
天下の不良高校・空導生の威圧を発動!並の人間なら今の一言で逃げ出すだろう。不良の巣窟である空導高校とは皆関わりたくないのだ。
が、男は逃げ出さなかった。蓮太郎の肩から手を離し、その手を腰にあてる。そして蓮太郎の目を真っ直ぐ見て言った。
「君、その袋に入ってるのタバコでしょ?ダメじゃないか未成年がそんなもの買ったら」
男性は蓮太郎の持っているコンビニ袋を指さした。その袋の中には先程買ったばかりのハンバーグ弁当、ペットボトルのお茶、ポテトチップスとガム、そしてタバコが入っている。
「これは友達に頼まれたやつで俺のじゃ……」
「言い訳しないっ!」
「ほんとのことなんだけど」
このままこの男に捕まっていたら学校に遅れてしまう。正直学校なんてどうでもよかったが、この男とここで話しているよりはマシだ。何とかして逃げ出さなければ。
「ていうか、こんな不良と話すなんて嫌じゃねーの?」
見たところこの男も高校生だ。近くの高校の制服を着ているが、外見からしておそらく一年生だろう。それに比べてこちらは札付きの不良高校だ。仕方がない、少し脅して帰ってもらおう。
「怖いさ!君はあの空導高校の生徒みたいだからね」
「ならさっさと自分の学校に帰れよ」
「だけど大丈夫、僕は演劇部だからね!」
「はあ?」
まるで意味がわからないことを言う男に思わず間抜けな声が出る。男は胸を張って続けた。
「今は悪い不良生徒に注意をする役を演じているのさ!うちの演劇部は優秀だからね。どんな役でもできなきゃ。ちなみに部長!」
「聞いてねぇし……」
男は満面の笑みで「聞かれてないけど聞いてほしいのさ」と言った。そのまま流れるように演劇部の話を始め、演劇全体の話に移り、演劇界隈で有名なナントカという役者の話になったところで、「もうこんな時間!」と言って去って行った。あとにはコンビニ袋を片手に立ち尽くす蓮太郎だけが残された。
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