一度きりの今日を楽しんで




「あっははははははっ」

「…………」

「あはははははははははっ」

「…………」

「あはははははははははっ!」

「……何がそんなに面白いんですか」

「雅美ちゃんの帽子が!」

腹を抱えて笑っていた店長は、私の頭を指差してそう答えた。どうやらかなりツボに入ってしまったらしく、私の頭を見ては爆笑している。

こんな場所━━ネズミィーランドのお土産売り場で腹を抱えて笑っている店長は、正直かなり目立っていると思う。そして当然、店長の目の前に突っ立っている私も、かなり目立っているはずだ。

私は他のお客さんの視線を感じで少し恥ずかしくなった。

なぜ私達が二人で仲良くネズミィーランドなんぞに来ているのかというくだらない質問はさておき、私はそろそろ店長を殴るための鈍器を探すことにする。いい加減こいつの息の根を止めてやらないと。

「ていうか、私達目立っちゃ駄目なんじゃないんですか?」

「だって雅美ちゃんがそんな面白い帽子被るから」

そう言って店長はまた笑った。なんて失礼な奴なんだ。人の顔を見て笑うなんて。まったく本当に、信じられない!

私は頭の上にあるネズミィーキャラクターが沢山乗った三角形の帽子を、売り場の棚に戻した。私はかわいいと思って被ったのに。それをあんなに笑うなんて。

「あれ、もう戻しちゃうの?」

「店長が笑うからですよ」

「似合ってるって」

「全っ然嬉しくないんですけど」

さて。そろそろ私達がこんな所で楽しくショッピングなんてしている理由を説明した方がいいだろう。

今回の依頼はある人物を尾行してくれというもの。依頼人は鈴木美佳さん。私達が尾行するのが革口智洋さん。二人とも二十二歳の大学四年生だ。

私達が尾行している革口さんは、現在彼女らしき女の人とネズミィーランドでお土産を見て回っている。だから私達もお土産売り場にいるのだが。

革口さん達はおそらくアトラクションの待ち時間を潰しているのだろう。このネズミィーランドは関西一の人気テーマパークだから、入場者もかなり多い。アトラクションひとつ乗るのも一苦労だ。

依頼人の鈴木さんは、私達に一週間の尾行を依頼してきた。そして革口さんの行動を事細かに教えてくれと。私はこの依頼を受けたときから思っていたのだが、これってストーカーなんじゃないかなぁ。

「ねぇねぇ、もしかしてストーカーなのかな」

「……もっとオブラートに包みましょうよ」

店長の言ったことがたった今自分が考えていたことと全く同じだったので、内心少しビックリする。それでも私は冷静にツッコミを入れた。

「実は雅美ちゃんもそう思ってるでしょ?」

「ま、まぁ、思ってなくはないですけど……」

今日は革口さんの尾行を初めて4日目。革口さんは初日にもあの女の人と会っていたし、やはり彼女なのだろう。私達の目の前で、連れ立ってレジに並ぶ革口さんと彼女さん。その手にはペアのストラップが握られていた。

これ以上行き過ぎたストーカー行為に走る前に、鈴木さんに諦めるよう説得した方がいいような気がするんだけど……。

「ちょ、雅美ちゃん見てよこれ!」

私が真面目に革口さんの行動を監視していると、背後から店長の声が聞こえてきた。さっきまですぐ隣にいたのに、ちょっと目を離すとこれだ。

店長が騒ぎ立てるので振り返ってみると、

「共食い」

そう言ってミニィーのパペットをミッキィーのパペットにかぶりつかせている店長がいた。私は手頃な鈍器を探すために辺りを見回し始めた。



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