一度きりの今日を楽しんで2
園内一番人気のジェットコースターで一時間待ち。だが一時間なんて全然待ってない方だ。今日は月曜日なのでお客さんの量もまだマシな方だったのだろう。実際私も今日は授業を休んでここに来ている。
「はぁ」
さすがに足が痛くなって座り込んだ。少し前から列が全然動かなくなった。もう少しでジェットコースターに乗れる所まで来ているんだけど……。
座り込んだものの、三組前に並んでいる革口さんからは目を離さないように用心する。
「雅美ちゃんどうしたの。ため息なんてついて」
「だってこれ、一時間待ちって……。というか、何で店長そんなに元気なんですか?」
ジェットコースターの列に並び始めた時に限らず、ここに来てからずっと店長のテンションは高いような気がする。店長がネズミィーランドを楽しみにしているとは思っていなかったが、実は楽しみだったのだろうか?
「だってこんなとこ全然来たことないもん」
「そうなんですか?なんか意外ですね」
「意外ですね」と言ったのは自分自身だが、確かに店長がこういう遊園地的な所で遊んでいるのは想像がつかなかった。今ではなく高校時代の店長をイメージしてみたとしてもだ。
「あ、列動いたよ」
店長が前に進んだので、私は慌てて立ち上がった。どうやら何かお客さんとトラブルがあって少し列の流れが止まっていたらしい。だがここはネズミィーランド。それは夢の国。お客さんとのトラブルなんて魔法の力であっという間に解決だ。
「これすっごい速いですよ」
「そうなの?」
店長が遊園地に来たのが初めてというのなら、ジェットコースターに乗るのも初めてのはずだ。少し脅してやろうかと私はそう言ってみる。しかし店長の反応はイマイチだった。
もしかしたら店長はこのジェットコースターをなめているのかもしれないが、その考えは甘すぎる。チョコレートに砂糖とミルクを入れたくらい甘々だ。このジェットコースターは実際ものすごく速い。
後で店長にいじられないように、絶対に叫ばないようにしようと私は決意を固めた。逆に私が叫ぶのを我慢できれば、なめてかかっている店長をからかうことができるかも。普段からかわれる側の私にとって、またとないチャンスだ。
大丈夫、この前友達と来たときに乗ったから、速さはだいたいわかっている。速いとわかっていれば、あとは口をぎゅっと閉じていればいいだけだ。ついでに目も閉じておこう。
うん、大丈夫だ。今日はいけそうな気がする。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます