増えると嬉しい秘密
四月六日、日曜日。午前十一時過ぎ。私が店に行くと、ちょうど店長が出かける所だった。
「雅美ちゃんおはよう」
「おはようございます、店長。どっか行くんですか?」
店長はよく店を空けてフラフラしている。でも今出かけるのはいつものフラフラじゃなくて、ちゃんと用事があって出かけるんだということが私は分かった。店長が財布とケータイ以外の荷物を持っているからだ。
「うん、ちょっと白虎店にね。ちょうどいいから雅美ちゃんも行く?」
「おとといの話ですか?」
店長が薄っぺらい封筒を手にしながら尋ねる。おそらく中身は報告書なのだろうが、こんなに薄っぺらくていいのだろうか。報告書などの作成はは普段瀬川君の仕事だが、彼は今回の依頼にはほとんど全く関与していなかった。あの報告書はもしかしたら店長が書いたものかのかも。
「うん、そう。日波さんはもう引き渡したから、反省会っていうか、まぁそんな感じ」
「じゃあ行きます……あ」
私はカウンターに座って私達の会話を聞いている瀬川君に気がついた。たぶん私が来るまで店番をしている予定だったのだろう。でも私も白虎店に行くのなら、瀬川君は私達が帰ってくるまでずっと店番をしていなければいけなくなる。彼は自分の部屋にこもっていたいだろう。
「瀬川君、店番大丈夫?」
「まぁ、お客さんが来るとも思えないし」
私は瀬川君の言葉に「それもそうか」とうなずいた。普段から閑古鳥が鳴いている朱雀店だ。数時間くらい放っておいても大丈夫だろう。
瀬川君も了承してくれたことだし、私も白虎店へ行くことに決まった。鳥山さんの怪我も気になるし、私達が取り逃がしてしまった日波さんを捕まえてくれた藍本さんにもお礼を言いたい。
「じゃあリッ君、店番お願いね」
「ごめんね、瀬川君」
店長が店を出たので、私もそれに続く。瀬川君は無言で私達を見送った。
店長は運転席に、私は助手席に。黒い車のそれぞれいつもの場所に乗り込み、白虎店へ向かう。
「そういえば雅美ちゃん、腕大丈夫だった?」
「あ、大丈夫でした……って、なんで私が腕怪我してるって知ってるんですか」
私は咄嗟に左腕を押さえながら尋ねた。一昨日店長に会った時に細かい怪我の具合は言わなかったはずだし、昨日連絡したということもない。いったいどこで聞いたのだろう。
「麗雷ちゃん→アイちゃん→にぃぽん情報」
「そうですか……」
鳥山さんが私の話をするなんて意外だな、と思った。私なんてどうでもいい存在なのかと思っていたけれど。
それにしても、白虎店の店長さんに私の話したって仕方ないんじゃないのかな?私みたいな目立つところのないただのアルバイト、白虎店の店長さんは知りもしないのではないだろうか。
「店長って、他のお店の店長と連絡取ったりするんですね」
「あははははっ、雅美ちゃん面白いね!」
何気なくそう聞いてみたら、何故か笑われてしまった。店長はまるで、私がとんちんかんなことを言ったから面白くて仕方がない、という顔をしている。
「な、なんで笑うんですか!」
「秘密秘密」
「また秘密!?」
そんなの秘密にする必要あるの!?なに聞いても「秘密」の一言でごまかして!いつか店長の秘密全部あばいてやる!
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