友達になっちゃいけない人ってどんな人?2




「で、今は何でも屋状態か」

「うん、殺人鬼は卒業したのっ♪」

「まぁ、いいことではあるが、やっていることは変わらぬような気もするな」

「自称殺人鬼じゃなくなっただけマシなんじゃないの?」

「そうだよ、私だって成長してるんだから★」

「そういえば貴様、さっきうちの奴らに会ったと言っていたな。あれは何なのだ?」

「うん、言った言った♪」

「あんたってあの研究所の人なの?」

「まぁ、研究はしていないがな」

「メルキオール研究所っていうんだよ☆」

「あそこ、前から気になってたのよね」

「私スフレちゃんに会っちゃったー☆」

「あいつは何か余計なことを言ってはいなかったか?」

……なんで。なんでこんなに仲よさ気に話してるんだろう。あれ、気のせいかな?私達さっきまで死闘を繰り広げてたよね?

ここはさっきの場所から百メートル程離れた、住宅街の道の端。さっきの場所はブロック塀やアスファルトを壊しまくってしまったし、さすがにヤバいと思って逃げてきた。今ごろ近所の住人が警察に連絡しているかもしれないが、私達は顔を見られたりしていないだろうか。心配だ。

私達四人は現在、壁にもたれて横一列になって座り込み、お喋りに花を咲かせている。みんな全身包帯でぐるぐる巻きだ。一番軽傷なのは北野さんだろう。鳥山さんは擦り傷切り傷とアザだらけだし、あの女の子━━ジェラートさんは北野さんの刀による出血で包帯に赤色が滲んでいる。

私達の並ぶ順番は、右から順に私、鳥山さん、ジェラートさん、北野さんだ。個人的に北野さんはちょっと苦手だし、ジェラートさんの隣なんて窒息死しそうなので、私の隣は必然的に鳥山さんになる。不思議だよ、あんなに苦手だった鳥山さんが今では安らぎの象徴のようだ。

未だに現状についていけていない私を放って、三人はお喋りを続けていた。

「そういえばさ、麗雷ちゃんは私と同じ学校なんだよね★」

「あ、やっぱり気付いてたんだ」

「うん、見たことある人だなーって♪」

「貴様の制服はたしか聖華か?」

「そうだよ♪ピンクのセーラーって珍しいでしょ★」

「学年でリボンの色が違うのよ。私は赤」

「私は黄色☆」

「一年は緑よね?」

「私のところはブレザーだからな」

「ていうか、今着てんのって制服だよね?★」

「そのセーター指定?」

「制服が一番動きやすい」

「そういえば、玲那ちゃんはこんな時間に何してたの?★」

ジェラートさんの一言に、私はパッと顔を上げる。そう、それそれ、それが私の一番聞きたかったこと!北野さんはどうしてこんな所に来たのか……。どうして私達を助けてくれたのか……。

未だに一言も喋れていない私のかわりに、ジェラートさんが聞いてくれたので助かった。まぁ彼女にそんな意図はないと思うが。

「この近くに知り合いが住んでいてな。それでまぁ、仲裁に来たわけだ」

「だれだれ?知り合いって?★」

「貴様は見たことないと思うぞ」

「私は見たことないのに私のこと知ってるなんて……もしかして私の……」

「ファンとか言うんじゃないでしょうね」

「言いません、言いませんよぅ」

頬を膨らまして唇を尖らせるジェラートさんをスルーして、北野さんが話を続ける。

「まぁ話せば長くなる。伝言ゲームのような感じだったからな」

「あの研究所、みんな仲いいもんね★」

「そうでもないぞ?仲の悪い奴は仲の悪い。わざわざぶち壊そうとしている愚か者もいるようだがな」

「最悪、だね……」

急にしおらしくなったジェラートさんに、北野さんが不思議そうな顔で「どうした?」と尋ねる。私と鳥山さんも、少しうつむいたジェラートさんの顔を覗き込んだ。

「うん、私も友達と喧嘩させられそうになったことあるから……」

それは彼女にとって嫌な思い出のようで、ジェラートさんは眉を寄せて呟くようにそう説明した。

ジェラートさんの話を聞いた北野さんは、少し視線を鋭くする。

「興味深い話だな。もしやロール・モンブランという男ではないか?」

「ううん、黒川さん」

「……黒川正蔵の方か」

「玲那ちゃんの知ってる人?★」

「その話、詳しく教えろ」

北野さんは急に真剣な顔になって言った。二人の口から出た名前、黒川正蔵とはいったい誰なのだろう。隣の鳥山さんの顔を盗み見てみたけれど、私と同じ表情をしていた。わかっていないのは私だけではないと安心する。

「うんと、私、とくに仲のいい友達が三人いるの」

「そういえば、いつも四人で行動してるわね」

「うん★それで、学校では普通の子でいたんだけど、その黒川さんが突然出しゃばってきてばってきて……」

なるほど、たしかに学校の人達に、実はこんなことをしているなんて言えるわけない。夜の住宅街で血生臭い死闘を繰り広げているなんて。友達が知ったらビックリでは済まないだろう。

「黒川がバラしたのか……」

消えたジェラートさんの言葉を補完する北野さん。その表情は苦々しげに眉をひそめていた。ジェラートさんは北野さんの予想を「うん、そう」と言って肯定する。しかし、鳥山さんが不思議そうな声を上げた。

「あれ、でもあなた達今も四人でいるわよね?」

「うん、それでも友達って言ってくれたの♪」

ジェラートさんは、戦いの最中に浮かべていた不気味な笑顔ではなく、本当に嬉しそうな表情で笑った。鳥山さんは少しうるっときたらしく、優しい表情で「いい子達じゃない」と言う。

しかし、ここで北野さんがさらっととんでもないことを言った。

「"切り裂きジャック"でも友達とは、そいつらの頭は大丈夫か?」

北野さんの言葉に私と鳥山さんが石のように固まる。私は北野さんの言葉に耳を疑い、軽く五回はその言葉を脳内で反芻させた。きっと鳥山さんも同じことをしただろう。

ジェラートさんは「四人で一つ、だって~♪」とニコニコしている。私と鳥山さんはそんなジェラートさんを見て、あきれ顔の北野さんを見て、もう一度だけ北野さんの言葉を脳内で繰り返して、ようやく理解した。

そして私と鳥山さんの声は見事にハモる。

「「え!?切り裂きジャック!?」」

切り裂きジャックといえば、ついこの間まで大量殺人を繰り広げてニュースを賑わしていた殺人鬼だ。それが、その殺人鬼がこのジェラートさん!?

驚きのあまり顎が外れそうな私と鳥山さんに、ジェラートさんと北野さんはけろっとした顔で言った。

「あれ、気付いてなかったの?★」

「こいつはあれだ、大量殺人犯というやつだ」

その夜、私と鳥山さんの悲鳴が夜空にこだました。



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