仮想から連想する恋物語2




朝起きると、蓮太郎さんのベッドの上で寝ていた。ちゃんとベッドの中に身体が収まっているのを見るに、おそらく蓮太郎さんが寝かせてくれたのだろう。

時計を見るともう九時半だった。蓮太郎さんはとっくに仕事へ向かったようだ。家の中はしんと静まり返っていた。そういう私も、この時間では仕事に大遅刻だ。

私はのろのろと起き上がり、リビングへ向かった。リビングのテーブルには朝食のフレンチトーストが置かれていた。

洗面所で鏡を見ると、髪の毛が見事に爆発していた。ハネた部分を手で撫で付けてみるが、しばらくするとまたピョンとハネたので諦めた。

昨日は疲れていたのであのまま眠ってしまったのだろう。蓮太郎さんはあの部屋で寝たのだろうか。ベッドは私が占領していたので同じベッドで寝たということはないだろうが、同じ空間で寝ていたのなら、少し理想とは違うが一緒に寝たと受け取っても過言ではないのではないだろうか。

私は冷たい水で顔を洗うと、パンパンと顔を叩いた。

「よしっ、ですわ」

目が覚めた。

部屋で着替えて化粧をし、爆発した髪の毛をきれいにまとめて家を出た。そのまま黄龍の書庫のひとつに向かい、必要な資料を持ってここ最近毎日顔を出しているオフィスへ向かった。

オフィスに入ると、よく話す何人かが「おはよう、遅かったね」と声をかけてきた。今の私の仕事には明確な出勤時間が決まっていないので、普段より数時間遅れたくらいで怒られたりしないのだ。

なかなかいいペースでファイルを処理していき、三時間後にはもう帰れるようになった。今日やった仕事は別に私じゃなくても出来る仕事。でも今は、ひとつひとつを頑張ることに意味がある気がする。

あの頃は蓮太郎さんに見てほしくてがむしゃらに頑張っていたけれど、今は見ててくれているとわかっているからもっと頑張れる。

スーパーに行って夕飯の材料を買ってこよう。家に帰って料理の練習をしょう。そうと決まればぐずぐずしてはいられない。私は勢いよく椅子から立ち上がった。

と同時に後頭部に激痛が走った。遠退く意識の片隅で、先程私の近くで作業をしていた男性の「あ、やべっ」という声が聞こえた。彼が担いでいた大きな鉄板が私の後頭部に直撃したのだと理解して、そこで完全に意識を手放した。



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