生きる喜びとは主役を演じることを意味しない3




「兵藤独尊(ひょうどうどくそん)!」

「二人あわせて唯我独尊?」

「だから言いたくなかったんだよ!笑うなら親のネーミングセンスを笑えよ!」

そう言って兵藤弟━━独尊君はハンバーガーにかぶりついた。現在私達は朱雀店の近くのアクドナルドに来ている。理由はまぁ、成り行きである。私はホットコーヒーを飲みながら、ハンバーガーをむしゃむしゃ食べる独尊君を眺めた。残念ながら私はちゃんと朝ごはんを食べてきていたのだ。

「それで、今日は何で一人なの?お姉さんは仕事?」

「違うね!俺が仕事なんだ!」

独尊君はストローがガラガラ鳴るまでコーラを飲んで、次にポテトに手を延ばした。

「今日は久しぶりにまともな仕事を任されてさ、男を尾行するだけなんだけどよ、姉ちゃんは危ねーから店に置いてきたんだ。姉ちゃんはおっちょこちょいだから……。いや、店も危ないな。姉ちゃん超かわいいから」

「うん……そうだね……。そういえば、尾行してる人はどこにいるの?なんか普通に朝アックしちゃってるけど」

そう言った瞬間、独尊君の手からポテトがポロリと落ちた。うん、だいたい予想はしてたけれどね……。

「……見失ったんだ……お前に会うちょっと前に」

「…………」

そうだとは思っていたが、実際に言われると何て返したらいいかわからない。何かしら励ました方がいいだろうか。

「何か知んねーけどよ、あいついきなり走り出して、それが予想以上に速くて追い付けなくて……。仕事失敗したら店長すげー怒るし、失望されたくないから姉ちゃんには言えねーし……。なぁ、俺どうすればいいんだよ!」

そんなことを私に言われても!

独尊君はバッと両手で頭を抱えると、ワシャワシャと髪をかき回した。あーあ、せっかくセットした髪型が。

「とりあえず、逃げたその男の人を探さないとね。いつまで尾行してれば良かったの?」

「いつまでっつーか、そいつがアジトか何かに行くまでなんだけど。まぁつまり、そのアジトが分かればいんだ」

なるほど、何の組織かは知らないけれど、根城さえ分かればその男の人の後をずっとつける必要はないということだ。

「それならまだ間に合うじゃん!」

「間に合わねーよ、あいつがどこにいるかももう分かんねーのに!」

「間に合うって!あなた何でも屋でしょ!?」

「意味分かんねーし!」

「何でも屋はね、何でもできるから何でも屋なんだよ!」

そう言うと、独尊君はなぜか「おお……」と呟いて感動した。感銘を受けているところ申し訳ないが、この言葉は店長の受け売りである。

「で、でもよ、実際どうすればいいんだ?手掛かりゼロだろ」

「うーん、聞き込みしてくしかないかなぁ……。その男の人の写真とかない?」

「それはもちろんあるけど」

そう言って独尊君はスマートフォンを操作し始めた。しばらくしてそのディスプレイを私に見せる。

「こいつ。下の方」

最新版でも何でもないスマホの比較的小さな画面を見ると、二人の男性の画像が貼ってあった。画面の一番上の端には【No.23】と書かれていた。これが以前に花音ちゃんが説明してくれた依頼番号というやつだろうか。いくつか登録すればスマホでも見れると言っていたし。独尊君は下の方の画像をクリックした。画像がかくだされる。

「今日は黒い上着着てた。顔が普通過ぎて後つけんの苦労したぜ」

「結果的に見失ってるしね」

「うるせっ」

私はスマートフォンの中の男性をよく見てみる。確かになんの特徴もない普通の顔だ。次の瞬間にはもう忘れてしまいそうな。私は男性の顔を頭に叩き込んで、残っていたコーヒーを飲み干した。勢いよく席を立つ。

「よしっ、探しに行こう!」

「どこにだよ」

「動かないと何も始まらないよっ!?」

独尊君は黙って席を立った。私はそれを賛成と受け取る。アクドナルドを出て、男性を見失った辺りを目指して移動する。

「そういえば、あんた仕事は?店員三人しかいないんだろ」

「それは大丈夫だよ」

振り返って笑った。独尊君は複雑そうな顔をした。また不真面目ガーとか考えているのだろうか。私は構わず先を続けた。

「店長と瀬川君がいれば、私なんて居なくても店は回るんだから」

悔しいけれど、それは本当の事だから。




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