ついに決行!偶然を装ってバッタリ大作戦!9
「四人乗りだって」
「本当ですわね。二つに別れないといけませんわね」
観覧車前の【4人乗り】の表示に、私は頭を働かせる。ネズミィーランドの観覧車の大きさは中級だが、私達は七人、まぁ大型だったところで二手に別れることにはなっただろう。問題は、どのように分けたら独尊君にメリットがあるかである。
私は瞬時に一つの答えを弾き出した。独尊君、花音ちゃん、藍本さん、椏月ちゃんの四人と、唯我さん、瀬川君、私の三人である。唯我さんと独尊君を一緒にするのは、シスコンが発揮されてしまうので絶対に避けたい。そして、椏月ちゃんと藍本さんをセットにすれば、自ずと二人の空間になるだろう。そうしたら残った独尊君と花音ちゃんは二人で会話をするしかなくなる。
このグループ分けはもはや確定事項である。協力者が多いからだ。協力者その一、椏月ちゃんは絶対に藍本さんと同じグループになりたがるだろう。協力者その二、花音ちゃんは絶対に瀬川君と同じグループになりたがらないだろう。唯我さんは独尊君と一緒に乗りたがるかもしれないが、これだけ自分に利益がある提案に他の二人が乗らないとは思えない。
「とりあえず二つに別れようか。今並んでるまま前後でいい?」
私はそう言って、自分の目の前で空間を切るように腕を動かした。予め私が少し移動しておいたので、うまい具合に作戦通りのメンバーに別れている。さぁ、みんな同意しろ!
「大丈夫です!」
「私もこのままでいいと思いますわ」
予想通り真っ先に椏月ちゃんと花音ちゃんが同意する。もっと同意を集めて反対意見を言う雰囲気を潰したいので、すかさず独尊君に声をかけた。
「じゃあこのグループにしよっか」
「わかった」
唯我さんは少し寂しそうな顔をしたが、賛成意見が半分以上のこの場で異を唱えることはなかったし、独尊君自身が賛成しているのだからそもそも何も言えない。
列が進み、私達の前にゴンドラがやって来た。まずは独尊君達四人が乗り込む。次に来たゴンドラに、私、唯我さん、瀬川君が乗った。私と唯我さんの正面の席に瀬川君が座る格好だ。私は四人組と別れたら言おうと思っていたことを口にした。
「すみません、唯我さん。独尊君と別グループになっちゃって」
少し申し訳無さを込めて言うと、唯我さんは微笑みながらあっさりと首を振った。
「そんなこと、全然大丈夫ですよ。どー君とはいつも一緒にいますし、それに……」
唯我さんはちょっとだけ四人が乗ったゴンドラに視線を向けると、また私に向き直って言った。
「どー君が私以外の人と仲良くなって、すごく嬉しいんです。どー君は小さな頃からお姉ちゃんっ子で、ずっと私の後について回っていたので……。雅美さん、今日は誘ってくれてありがとうございます」
「いえそんな、私はただ……」
そんなふうに誠実に感謝されては何だかこっ恥ずかしい。私は慌てて首と両手を振った。
「みんなで遊びに行ったりしたら楽しいだろうなぁって。それに、私も何でも屋にそんなに知り合いがいないから、仲良くなりたくて」
「そうなんですね。私も、鳩の仕事で顔見知りはたくさんいるんですけど、友達となるとなかなか難しいので……。こうして他の店舗の皆さんと遊びに行けて楽しいです」
唯我さん、シンプルにいい人だなぁ。将来詐欺とかに引っかからないか心配だ。
「瀬川さんもよく他店舗に行かれてますよね。他店舗の人と仲良くなったりするんですか?」
瀬川君が会話に入れないのを気にしたのだろうか、唯我さんがそう声をかけた。それに対して、瀬川君は「あんまり」と答える。
「話すことはあるけど」
「そうですよね。次に会ったときに挨拶するくらいで。もっと休みの日に遊びに行ったりしたいんですけど」
いや、瀬川君はそこまで望んでないと思うけど。とは言わずに、私は別の発言をする。
「でも瀬川君や唯我さんは他の店舗に行く機会が多くていいじゃないですか。私なんて基本ずっと店だから、他の人と仲良くなる機会もないですもん」
「たしかにそれではなかなか広がりませんね」
仕事で行った他店舗は白虎店だけだ。玄武店には自発的に行ったが、青龍店には行ったことすらない。
「荒木さん何で他の店舗の人と仲良くなりたいの?」
「え?何でって言っても。繋がりが多い方が良くない?店長とか基本的に何も教えてくれないし」
瀬川君は横の繋がりなんていらないのかもしれないが、私はできるなら欲しい。私の何でも屋の知識はほとんど鳥山さんから聞いたものな気がする。彼女のような仕事の情報をシェアできる人間は多いに越したことはない。
私の答えに、瀬川君は「そっか……」と呟いただけだった。本当は瀬川君がこの「仕事の話ができるアルバイト仲間」になってくれたらいいんだけど。
「朱雀店の店長さん、優しそうなのに。うちの店長は意地悪で教えてくれなかったりしますが」
「でも何か一応決まりがあるんでしょ?アルバイトにはあんまり話しちゃいけない的な」
「そんなの上辺だけだよ。長いアルバイトはだいたいのこと知ってる。僕が知らなかったのは本部の場所くらいだったけど、存在は知ってたし」
思い返すと、本部での説明会に行く前から、瀬川君は何でも屋は四店舗でなく五店舗って主張してたっけ。
「そういえばそれ何でなの?本部があること知ってた理由」
「普通に仕事で連絡取ってたし……」
「えっ!そうなんだ」
「店長がここに報告してって言った所に仕事のやり取りとかしてて、時が経つにつれここが本部なんだろうなって気がついた」
「あの人けっこう適当だよね……」
説明会は一種の能力テストだったはずだ。それをする前から本部とやり取りさせるなんて、正社員の立場的に大丈夫なのだろうか。まぁ、正社員が店長一人で手が回らなかったのかもしれないが。
「僕の前任者的な人もアルバイトだったよ。辞めたあとに入ったから会ったことないけど」
「じゃあもともとアルバイトにも情報教えまくってたんだね……」
瀬川君はコクリと頷いた。
「ですが、朱雀店は社員さんが店長さんしかいないし、それも仕方ないのかもしれませんね」
「まぁ。店長がプライベートの時間を削れば事務作業は全部あの人一人でできるだろうけど」
「うちの店長と違って、朱雀店の店長さんは仕事ができますもんね」
「唯我さんまでそんなこと言うなんて……」
「私から見ても、店長は指示する立場に向いてないことはわかるんですよ……。感情に身を任せすぎていて」
唯我さんはため息まじりに笑った。温厚で人の悪口など言わなさそうな彼女にこうもハッキリ言わせるとは、勇人さんはなかなかに無能なようだ。
このまま何でも屋の話をしているうちに、ゴンドラは一周して乗り場まで戻ってきた。観覧車に乗っていた時間はそんなに長くはない。十分くらいだ。独尊君は花音ちゃんと喋れただろうか。
先に降りてアトラクションの外で待っていた四人に近付いて声をかける。椏月ちゃんはしっかりと藍本さんの隣をキープしていて、そのおかげで独尊君の隣に花音ちゃんがいる。ありがたい。
「お待たせ。ちょうどいいくらいの長さだったね」
そう言うと、みんな同意した。いい時間だからそろそろ帰ろうかという話になる。みんな明日は朝から学校があるのだ。
名残惜しいがゲートの方へ歩き出す。心なしかダラダラと歩く集団からさり気なく離れて、最後尾へ向かう。最後尾は独尊君なのだ。
「独尊君」
そう声をかけると、彼は私の顔を見てため息をついた。なんて失礼な、と言いたいのをグッとこらえ、歩みを緩めて集団と少し距離を取る。前を歩いていた瀬川君が振り返ったが、それだけだった。
「どうだった?花音ちゃんと何か話した?」
「四人でなら話したよ」
「えー?そうなの?椏月ちゃんと藍本さん、何か仲良くなってたから花音ちゃんと二人きりで喋れるかなーと思ってたのに」
それなら独尊君、花音ちゃん、唯我さん、私とかにして、私がずっと唯我さんと喋ってる方がマシだったか?……いや、無理だろうなぁ。双子を一緒にしたら必然的に会話は発生するだろうし、花音ちゃんは私と喋りたがるだろう。やっぱりあの班分けが最適解だったのだ。
「花音さんと同じグループにしてくれたのは素直にありがたいと思ったけど」
「まぁそれくらいは任せてよ。で、どんな話してたの?四人で」
「それなんだけどさ……」
ここで独尊君がまたため息をついた。いかにも嫌々という顔を作って言う。
「兵藤さん、もしかして雅美さんと付き合ってたりします?って言われた。花音さんに」
「はぁー!?」
思わず大きい声を出す。まぁこの距離じゃみんなには聞こえていないだろうと思って前方を確認すると、もれなく全員がこちらを見ていた。特に花音ちゃん、椏月ちゃん、藍本さんの視線が痛い。
「ちょっと、それちゃんと否定したの!?」
「したよそりゃ。でも否定する程みんな怪しむんだよ」
「う〜、わかる、わかるんだけどそうなるのは……」
私は思わず両手で顔を覆った。隣の独尊君がまた小さくため息をつく。こいつ!つきすぎだろため息!私もつきたいわ!
顔を覆っていた手で髪の毛をわしゃわしゃと掻き、全然すっきりしていない顔を独尊君に向ける。
「とりあえず、いったん離れよう」
「遅いと思うぞ。もう今更」
「やらないよりやる方がマシだよ。電車でも話しかけないでね」
それだけ伝えると、私はさっさと足を早めて前の集団に追いついた。最後尾の瀬川君に声をかける。
「瀬川君、店長にお土産買った方がいいと思う?」
私の言葉に彼はうわの空で「そうだね」と答えた。わー!もう絶対今私と独尊君の話してたでしょ!みんなの空気が何かそんな感じだもん!
私はこの場の雰囲気をぶち壊すように、大きな声でお土産売り場へ行くことを提案した。
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