ついに決行!偶然を装ってバッタリ大作戦!10




椏月ちゃんと赤穂駅で別れ、一つ隣の野洲駅で私と瀬川君は降りた。独尊君と唯我さんはもう少し先まで乗るらしい。花音ちゃんと藍本さんは別の路線なので、京都駅で別れた。

「あ、やば、お母さん呼ぶの忘れてた」

今日は駅までバスで来たので、帰りはお母さんに迎えに来てもらおうと思っていたのだ。会話を繋げるのに必死で連絡するのを忘れていた。この時間のバスは少ないし、歩くとなるとけっこう遠い。

「大丈夫だよ」

鞄からスマートフォンを取り出した私に瀬川君が抑揚のない声をかける。クエスチョンマークを浮かべながら彼を見ると、こう説明された。

「店長呼んだから。迎えに来てくれるって」

「え。そうなんだ。あれ?瀬川君自転車は?」

「今日はバスで来た。気分次第で店に寄ろうかと思ってたし、店長を足に使ってやろうと思って」

私が「そうなんだ……」と返すと、瀬川君は「先に呼んどいたからたぶんあと五分くらいで来ると思う」と言った。

そして当たり前のようにやって来る無言。瀬川君と二人になるともうお約束だ。今日は瀬川君と仲良くなるという目標もあったのに、独尊君の目標といい全然達成できなかったな。上手く行ったのって椏月ちゃんの恋だけなんじゃないのか。

さて、何を話そう。私が必死に話題を探していると、なんと瀬川君から話しかけてきた。

「そういえば荒木さんって」

「えっ、なになに?」

目の前に吊るされたエサに何も考えずに飛びつく。しかし彼の次の言葉は私の悩みの種であった。

「兵藤と付き合ってるの?」

「…………ないよ」

とてつもなく長いため息を吐いてからゲンナリした顔で答えると、瀬川君は引き気味に「そう」とだけ返した。

「それって花音ちゃんが言い出したことでしょ?私もさっき聞いた。独尊君に」

「藍本さんと田村さんもそう思ってたらしいけど」

「ええ!?全然そんな要素ないのに謎なんだけど」

「たぶんそう思ってなかったの当事者二人と兵藤さんだけだよ」

「いや何かそういうのじゃないんだよね。ちょっと独尊君のプライバシーに関わるからあんまり言えないんだけど」

「この流れでそこまで言ったら僕でも想像つくような気がするんだけど」

「ほんと?えぇ〜……絶対秘密だよ?」

そう念を押すと、当然瀬川君は頷いた。

「今日の企画、実は独尊君の恋を応援する為のものだったんだよね。その相手とあんまり接点ないからさ、仲良くなるきっかけ作りというか」

そう説明すると、瀬川君は何かを考え込みながら「あ〜……」と呟き、やがて「あいつ趣味悪いね」と言った。

「えっ……あ、そっか。女子って他二人しかいないもんね。そりゃわかるか」

「それを言われたら、今日の荒木さんの行動から何となくどっちなのかわかるよ」

「え〜、私そんなにわかりやすかった?」

「言われなきゃ気づかないよ」

そう言ったあと、瀬川君は急に吹き出して「じゃあトランプのくじは申し訳ないことしたかもね」と言った。お化け屋敷のペア決め、瀬川君が掻っ攫わなければ労せずあの二人をペアにすることができたのだ。

「いやー、まぁいいよ、全然。結局なんとかなったし」

「花音さんの発作のおかげで」

「あれありがたかったし、あの場でくじ交換を閃いた自分も褒めたい」

今日の出来事を思い出しているのか、瀬川君は妙に楽しそうだった。いつも「この世の全てマジでどうでもいいわー」みたいな顔してるのに、今は表情も少し柔らかだ。

「観覧車の班分けも何か強引だなぁと思ったんだよね」

「でも上手くいったでしょ?」

「そうだね。反対意見を黙らせれる最適解だったと思う」

「私は上手くやったと思うんだよ、私は」

「お化け屋敷で泣きつくような人が好みかもしれないよ、花音さん」

「もう絶対無理だよだって花音ちゃんの好きな人店長だよ?私一つ一つ全部注意したからね懇切丁寧に」

「大変だったね」

「そうだよ、大変だったんだよ。なのに何一つ上手くいかなかった〜」

私は肩からため息をつく。こうやって思い返してみると、本当に何一つ成功しなかった。お化け屋敷もムービーも観覧車も花音ちゃんとくっつけたのに、印象づけるどころかマイナスイメージ植え付けやがって。

「難しいね。他人のを応援するって」

「身を持って知ったよ。あーあ、これからどうしよう。どうやったら店長に勝てると思う?独尊君」

「勝てないと思う」

「だよねぇ……。いや、そんなこと言わずに」

そこで私は気がつく。

「あれ?そういえば店長遅いね。もう十五分くらい経たない?」

「そういえば。……あ、来た」

瀬川君の視線の先を見ると、店長の黒い車がこちらに向かっていた。夜にヘッドライトで車体のシルエットしかわからないのに、知り合いの車は判別できるの何でなんだろう。

ロータリーをぐるっと回る車を眺めながら、隣の瀬川君がこう尋ねた。

「そういえば前に僕に好きな人いるかって聞いたことあったでしょ。あの時の貰おうと思ってたアドバイスってもしかして兵藤?」

一瞬いつの話をしているのかと思ったが、比較的最近のことだったのですぐに思い出せた。たしか一ヶ月くらい前に、スフレちゃんから恋愛相談をされた日にそう尋ねたのだ。カウンターにいたらたまたま瀬川君が来たから。

「うん、まさしくそう。まぁ他にも花音ちゃんのとか友達のとかあるんだけど……。何かいっぱい相談されてるんだよね、私」

ハハハと乾いた笑いを浮かべたところで、店長の車が目の前に停車する。おかげで瀬川君は何も返すことなく、店長の車に乗り込んだ。

「店長、お疲れ様です。私も送ってくださいって言ったら怒ります?」

「全然いいよ。リッ君が来ないなら今日はもうごろごろしようかなぁと思ってたし」

私と瀬川君を乗せた車は景気よく走り出した。夜と言ってもまだそんなに遅い時間ではないので、車通りは多いしヘッドライトで周囲も明るい。

後部座席の隣に座っている瀬川君がおもむろに言った。

「そういえば来るの遅かったですね。何かあったんですか?」

「もうちょっと待った方がよかった?」

店長の答えに何故か瀬川君は運転席を蹴った。何が気に触ったのだろうか。遅かったのも、まぁ出掛けに電話でも掛かってきたのだろう。

「あ、店長にお土産ありますよ」

「ほんと?ありがとね」

「ここ置いておきますね」

私は身体を伸ばして助手席に土産コーナーのショップバッグを置く。中身はクッキーの詰め合わせとマグカップだ。瀬川君とお金を出し合って買った。

後部座席に座り直して伸びをする。さすがに疲れた。人のことばかり考えていたから余計に。次は友達とかと普通に遊びに行きたい。



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輪を結う絵筆 國崎晶 @shooooo_ast

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