ついに決行!偶然を装ってバッタリ大作戦!8




お昼を食べ終わって夕方四時。三つ目のアトラクションはネズミィーキャラクター達が3Dで動く、ネズミィームービーマジックだ。花音ちゃんが見たいと言っていたものである。

ジェットコースターなどのいかにもなアトラクションと違って人気は落ち着いていて、三十分待つだけで中に入れた。前方にステージと大きなスクリーンがあり、映画館のようなイスが並んでいる。

並び順は瀬川君、唯我さん、私、独尊君、花音ちゃん、椏月ちゃん、藍本さんで一列に横並びである。先程のレストランのようにまた独尊君の隣が唯我さんになり掛けたが、何とか阻止した。前後のお客さんの流れに押されたフリをして、独尊君を花音ちゃんの隣に押し出したのだ。

「楽しみですわね」

「ですね!あたしもここ入るの初めてなんです」

花音ちゃんと椏月ちゃんがキャッキャと会話をする。普通に話しているだけで若さを感じるのは現役女子高生だからなのか……私と一つしか歳変わらないのに……。

私の左隣りでは、唯我さんが瀬川君に「楽しみですね」と言ったところだった。今日一日通してほとんど会話がなかったし、端の瀬川君は唯我さんと話さないと孤立するので、気を遣ってくれたのだろう。瀬川君はハイともイイエとも取れない「はぁ」を返しただけだったが。

私は右隣の独尊君を見た。ボーッとステージを眺めて、上映が開始するまでのこの時間を潰している。せっかく花音ちゃんの隣の席にしたのに、話しかけるとかそういうのはないのか。私は内心でため息をついた。

「暇そうだね、独尊君」

「え?」

嫌味を言うと、独尊君は初め意味がわからないという顔をしたが、すぐに理解して「いやぁ……」と言って視線を泳がせた。

「だって何も言うことなくて」

「台本も用意しなきゃだめだった?」

「すまん」

私は今度こそ本当にため息をついた。花音ちゃんと椏月ちゃんはいつの間にかお喋りをやめていて、二人ともステージを見ている。私は少し身を乗り出して花音ちゃんに声をかけた。

「ねぇ、花音ちゃん、このあとどうする?」

「このあとですの?」

「うん、けっこうサクサク来れたからもう一つくらい乗れそうじゃない?」

と言いつつ、最後のアトラクションはもう決まっていた。観覧車だ。雰囲気があるという理由もあるが、行きの電車で唯我さんが乗りたいと言っていた。時間があったら乗ろうとも伝えてあるし。

「そうですわね……。他に出ていた案がありましたでしょうか……」

「観覧車だろ」

行きの電車での会話を思い出そうとする花音ちゃんの隣で、当然とばかりに独尊君が言った。急に入ってきたので私と花音ちゃんはついポカンとする。いや、このあと独尊君に「何か乗りたいのある?」と話を振ろうと思っていたのだが。

「そうでしたのね。ではせっかくですから最後に観覧車に乗りましょう」

花音ちゃんは愛想笑いを浮かべてそう言った。唯我さんが観覧車を提案した時彼女は会話に入っていなかったので知らないと思っていたが、もしかしたら耳には入っていたのかもしれない。

花音ちゃんの言葉に、独尊君は急に縮こまって「はい……」と答えた。意識した途端会話ができなくなる。

「観覧車ってなかなか乗る機会ありませんものね」

「わかるわかる、こういうとこ来ても結局乗らずに帰るよね」

「カップルのイメージが強くて友人同士で来てもスルーしたりしますわよね」

「そうなんだよね〜。特に日が暮れたあとの観覧車なんて、列にカップルしか並んでないもん」

独尊君を挟んで話す私と花音ちゃん。うーん、どうやったら独尊君が入れるんだろう。

結局独尊を会話に引き込むことができないまま、司会のお姉さんが登場して、私と花音ちゃんはお喋りをやめた。お姉さんの進行できぐるみを着たキャラクター達が現れ、寸劇をし、事前に配られた3Dメガネを掛けるように指示されるとスクリーンに映像が流れ出した。

約三十分後、私達七人はアトラクションの外にいた。固まってネズミィームービーマジックの感想を言い合う。

「俺も入るの初めてだったけどけっこうよかったな!」

「ですね!ネズミィーアニメとか見てたらもっと楽しめたのかもしれませんね」

「ネズミィーランドってこういうアトラクションもあったんですのね。新しい発見ですわ」

「やっぱりジェットコースターとか乗っちゃいますもんねぇ、普段は」

花音ちゃんが満足したようなのでよかった。独尊君的には何の進展もなかったが。むしろシスコンをアピールして引かれただけのような気がする。マイナスである。

ちらっと椏月ちゃんを確認する。レストランからずっと藍本さんの隣をキープしている。藍本さんも普通に楽しそうに接しているので、なんかもう椏月ちゃんに至っては私が手伝うようなことはないだろう。

次は、集団から一歩離れている瀬川君に目を向けた。忘れかけていた私のもう一つの目標は、瀬川君と仲良くなることだ。今の所心の距離が近づいたとは全く思えない。もう少し打ち解けられるといいんだけど。

「このあとなんだけど、」

私は少し大きめの声を出して全員の意識を集めた。

「まだ時間あるからせっかくなら観覧車行かない?」

その提案に全員賛同した。椏月ちゃんと藍本さんも、先程のアトラクション内での私達の会話を聞いていたのだろう。観覧車を提案した唯我さんはもちろん賛成で、瀬川君の無反応も賛成と受け取っておく。

「じゃあとりあえず並びに行こっか。みんな飲み物とか大丈夫?」

私達は通りがかりの屋台でドリンクを買い、パークの端にある観覧車へ向かった。



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