めんどくさい程遠回り2
「いらっしゃいま……あっ、あっらー!」
近くのスーパーの五番レジに並ぶと、この店の制服を着たにっしーが私の顔を見て微笑んだ。やっぱり今日もバイトだったみたいだ。私はレジに並ぶ口実のために持ってきたパック入りのジュースをレジの台に置いた。
真夏の昼間というこのクソ暑い時間、スーパーの店内もレジもお客さんはガラガラだった。他のレジの店員さんも暇そうな顔で突っ立っているし、少しくらいお喋りしても大丈夫だろう。
「あっらー、今日はバイトじゃないんですか?」
「いやー、バイトだったんだけど……。ちょっと上司とケンカしちゃって」
「え!?ヤバいじゃないですか!クビになったりしませんか!?」
にっしーは私の職場を見たことがないからクビだなんて言葉が出て来たのだろう。おそらく自分の職場のようにたくさんの同僚がいて、たくさんの先輩がいて、現場を取り仕切る上司がいて、その上にさらに次長、店長、社長といて……そういう風に思っているのだ。だから私の「上司とケンカ」という言葉を「上司に楯突いた」と捉えたのだ。
「大丈夫大丈夫、うち個人営業みたいな感じだから」
「そうだったんですか。安心しました。あっらー最近バイト頑張ってるからクビになんてなったら大変ですもんね」
にっしーは安心した顔をした。いくらレジが暇だといっても長話はよくないだろう。にっしーが先輩に注意されることになる。私はなるべくさっさと話を進めることにした。
「それで、かなり酷いこと言っちゃったんだけど、どうやって謝ればいいかな?」
「あっらーは謝りたいんですか?」
「そりゃ……もちろん。たぶん私が悪いんだし」
「なら帰ってごめんなさいって言えばいいと思います」
「それが素直にできないからこんな所まで来たんだよ」
私が悪かったと思う。あんなこと言うつもりはなかった。謝りたいと思う。でも素直に謝るには、ちんけなプライドが私を邪魔するんだ。
「その上司さんは怒っていましたか?」
「いや……びっくりしてた……かな。でも私が出て行ったあとで怒ったかもしれないし」
「きっと大丈夫ですよ。戻ってみてください。戻ったらいつもの風景ですよ」
「何を根拠に……?」
「勘です!」
私はつい苦笑いを浮かべた。そのすぐ後、私の後ろにお客さんが並んだので、私とにっしーは簡単な挨拶をして別れた。このスーパーには雑貨屋や服屋も入っているが、今の私には色とりどりの商品を見る気になれない。私は真っ直ぐスーパーの出入り口を目指した。
冷房の効いた店内から一歩外に出ると、そこは灼熱地獄だった。太陽は一番高いところで熱を振り撒いていて、こんな時間に外にいたら死んでしまうなと思った。
にっしーと話したあとでも、店に帰る気にはなれなかった。気持ちの整理はついていると思う。それとも自分はついているつもりだが、本当はまだモヤモヤしているのだろうか。
この炎天下の中ずっとここに突っ立っているわけにもいかない。時刻はちょうどお昼時だ。私は飲み干したジュースのパックを近くのゴミ箱に捨てると、駅前のファーストフード店へ向かって歩き出した。
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