どうして私なんだろう2




「首に傷の人?」

「そうなんです。身長百六十五センチくらいで、性別不明で、首にこんな感じで傷がある人を友達が探してるんですけど」

私は自分の首筋に手刀をあて、先程の鳥山さんと同じように動かした。相変わらずダラダラと、ソファーでテレビを見ながらノートパソコンを操作していた店長は、なぜか「ああ」と呟いた。

「心当たりあるんですか?」

「いや、ない。全く何もない」

ならさっきの「ああ」は何だったんだ。どうも何か隠してるっぽいなぁ。相手が店長だからそう思っちゃうのか?私って店長のこと信用してるのかしてないのかよくわかんないな。

「で、何でその友達はその人のこと探してるの?」

「えっ?ええと……」

しまった、その辺の理由を何も考えていなかった。私は慌ててありがちな言葉を並べる。

「なんか……自転車で事故りそうになって助けてくれたけど名前も言わずに去って行ったからお礼を言いたいんですって」

案外うまくごまかせたんじゃないだろうか。即席の嘘にしてはありがちでいい感じだと思うんだけど。しかし店長の反応はこうだった。

「ふ━━……ん」

「……あの、信じてます?」

「信じてる信じてる」

本当かよ。でも一回ついた嘘だ。このまま押し通そう。

「お願いしますよ。私友達から頼み事されたら断れないんですから」

そう頼み込むと、店長は「できる限り頑張る」と何とも曖昧な答えを返してきた。私はこれ以上言っても答えは変わらないと思い、渋々カウンターへ戻った。

その時、壁とくっつくように置かれた本棚が視界に入った。書庫……探せば何か資料があるかな。まだチラッとしか見たことはないが、書庫の中には本当に大量の資料があった。でも店長があてにならないとなると、もう自分で調べるしかない。

私は膨大な資料の中からたった一つの依頼を探す決意を固めつつ、鳥山さんに会いに行く前に見ていたカウンターに置きっぱなしのファイルに目を落とした。





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