三人寄らなくても文殊の知恵5




瀬川君と二人きりの時だけ店長という存在の有り難みが理解できる……などと思いながら、ようやく駅に到着する。最寄り駅である南鳥駅までは徒歩二十分程でつくのだが、連れがほとんど会話してくれないのでその二倍はかかった気がした。

駅の中に入り、電光板を見上げた瀬川君がポツリと呟く。

「電車、遅れてるね」

その呟きに私は七分ぶりに声を出して答える。

「でも早めに出たから時間には間に合うんだよね?」

瀬川君は【10分遅れ】の文字を見たまま返した。

「そうだね。だいぶ早く出たはずだよ」

それから店長にもらった紙に視線を落とし、

「初めて行く場所だから道に迷うかもしれないしね」

と付け足した。

紙には結構細かい地図が載っているが、迷わないとは限らない。まぁ、もし迷ったら周りの人に道を尋ねればいいだけの話だ。

それにしても、何故店長は私達にこんなに早く出発するよう言ったのだろう。私達がうんと早く朱雀店を出たのは店長の指示があったからだ。説明会は三時からだ。駅からは少し歩くみたいだが、それでも【徒歩十五分】と書いてある。さすがに正午出発は早すぎるのではないだろうか。あまり早く着きすぎても時間が余ってしまう。

私達は改札に通ってホームへ下りた。考えても仕方がない。とりあえずは行ってみることにしよう。早く着きすぎても、周りに時間を潰せる場所があるかもしれないし。

黙って二人並んでホームに突っ立っていると、しばらくして十分遅れの電車がやって来た。電車に乗り込んだものの、満席で座れそうにない。仕方なく私達はドアの近くに立って凌ぐことにした。

電車が発車してからも私と瀬川君の間には沈黙が漂っている。私は流れては消える景色をぼーっと眺めた。もう会話がないことが、むしろ居心地がいいかもしれない。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る