三人寄らなくても文殊の知恵4
「…………」
「…………」
瀬川君と並んで歩き出してからしばらく経ったが、やっぱり私達の間に漂う沈黙。静かだ。小鳥の囀る音がよく聞こえる。
と言っても、瀬川君は話しかけて来ないし、私も話すことないし。でもさすがにこのままずっと無言は辛いなぁ。何か適当に……今日の説明会のことでも話題を振った方がいいかな?
「この……」
などとあれこれ考えていると、まさかまさかの先に瀬川君が口を開いた。いきなり喋り出されたのでついビクッとしてしまう。まさかそっちから喋りだしてくれるとは思わなかったからさ。いや、ありがたいんだけれども。
私が平静を装って隣の瀬川君を見ると、彼は一昨日店長にもらった紙を見ていた。私の方には一瞥もくれないので、まるで独り言を呟いているかのようだ。
「この地図の場所、まだ行ったことなかったんだ」
「そうなんだ!この場所、朱雀店から結構近いのに」
瀬川君から喋ってくれたことが少し嬉しくて、ついテンション高く返事をしてしまう。近いと言っても電車に乗らなければならないくらいの距離だが、私と彼の「結構近い」のイメージに大差がないことを祈りたい。
「今まで行く理由がなかったから」
それを聞いて、ちょうど一ヶ月前の私は店長との会話を思い出した。あれは確か花音ちゃんと陸男さんが来た日だった。あの日店長は、瀬川君はいろんな店に行って自力でこの仕事について調べていると言っていたはずだ。それでも今日の説明会の場所には行ったことがないのか。
私より遥かに色々な場所へ行っている瀬川君が行ったことのない場所なんて、今日の説明会はいったいどんな所でやるのだろう。地図を見る限りどうやら朱雀、白虎、玄武、青龍のどれでもないみたいだし、となると残りは……麒麟……?
そこで私はふと気が付く。瀬川君はこの仕事を始めてかなり長いはず。この説明会が半年に一回やっていると言うなら、何故今まで行かなかったのだろう。私よりだいぶ長く働いている瀬川君が、私と同じタイミングで行くなんておかしいのではないか?第一、四年も働いている瀬川君はもう「新人」ではないだろう。
私はちらっと隣の様子を窺った。聞いてみようかな……。まさか並々ならぬ事情がある……とかじゃないよね?私は顔を上げると隣を見た。
「あ、あのさ瀬川君……」
「あ、店長からメッセージ」
「…………」
瀬川君は黙々とケータイを操作し始めた。しばらくしてケータイを鞄にしまい、私に目を向ける。
「受付の人に店の名前を言ったら通してくれるって」
「そ、そう。店長もさっき言ってくれればいいのにね」
瀬川君は「そうだね」とだけ言って口を閉じた。
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
空気が重いです。
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